嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「ベッティ、ルチア様のことお願いね」
「もとよりそれがわたしのお仕事ですのでぇ、リーゼロッテ様はご心配なさらずですぅ」
「余計なことをするつもりはないのだけれど……もしも困ったことがあったらいつでもわたくしに言ってちょうだい」

 リーゼロッテもルチアの想いに気づいているようだ。だが既にふたりが深い仲になっていようとは、さすがに夢にも思っていまい。

(知ったとしてもリーゼロッテ様ならいたずらに広めたりはしないでしょうけどぉ)

 その点だけは安心できる。しかしカイとルチアの関係は、絶対に秘密にしておかなければならなかった。
 客間に戻るや否や、ルチアは乱暴にソファに腰かけた。置かれたクッションを手当たり次第に投げつける。

「ルチア様ぁ? ここはお世話になっている公爵家の客間ですよぅ?」

 (たしな)めるように言うと、投げかけた最後のクッションをルチアは胸にぎゅっと抱きしめた。

「ねぇ、本当にカイから何も連絡はなかったの?」
「特になかったですねぇ」

 口癖のように聞かれ続けているが、ベッティの返事が変わることはない。ルチアはむすっとして押し黙った。
 そもそもこういった状況に(おちい)るのが面倒で、カイ自身、初心(うぶ)な令嬢はこれまで避けて通ってきたはずだ。惚れた腫れたの事態ならばともかくも、カイが本気でルチアに入れあげているようには見えなかった。
 実のところベッティは、カイと何度も連絡を取り合っている。そのやりとりは他の任務と大差なく、必要最低限の業務連絡のみだ。ルチアが会いたがっていると報告しても、カイが何か言葉を(ことづ)けてきたことは一度もなかった。

「ルチア様ぁ、リーゼロッテ様には何もお話ししてないですよねぇ?」
「わたしからは何も言ってないわ。ちゃんとわたしの片思いだから黙っててほしいってお願いしたし、今日のあれはリーゼロッテ様が勝手に気を回しただけよ」

 不機嫌に返される。確かにリーゼロッテは、ルチアの想いに前々から勘づいていたように見て取れた。ルチア自らがべらべらしゃべったという事はなさそうだ。

「だとしたら尚のことぉ、今日のルチア様の態度はよろしくないですねぇ。リーゼロッテ様だから笑って許してくださってますがぁ、他の方相手なら不敬罪に問われてもおかしくないですよぅ。そんなことになったらぁ、二度とあの方に会えなくなりますからねぇ」
「分かったわ。これからは気をつける」

 カイを盾にすれば、大抵ルチアは素直に引き下がる。それでも今日はまだ頭に血が上っているようだ。ようやく会えると思っていただけに落胆も大きいのだろう。

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