嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
(しばらくはそっとしておきましょうかねぇ)

 冷めた紅茶のセットをワゴンに乗せて、ベッティは一度部屋を離れようとした。

「ねぇ、ベッティ……」
「特に何もないですねぇ」

 振り向きざまに答えると、むっとした様子でルチアが睨みつけてきた。

「まだ何も言ってないじゃない」
「これは失礼いたしましたぁ。あの方から連絡がないかと、また同じご質問なのかと思いましてぇ」
「そんなこと言うつもりはなかったわ!」
「ではどのような御用でお呼びでしょうかぁ?」

 一瞬口ごもったルチアの顔が、見る見るうちに赤くなっていく。胸に抱いたクッションを、ルチアはベッティに向かって投げつけた。

「独りにしてって言いたかったの! 今すぐ出てって!」
「承知いたしましたぁ」

 ぺこりと頭を下げてから、悪びれた様子もなくベッティは再びワゴンに手を掛けた。

「なんなのよ、その態度! あなたこそ令嬢(わたし)に対する礼儀がなってないんじゃない!?」
「ご気分を害されたのならお詫び申し上げますぅ。お気が済むのでしたら鞭打ちでもはりつけでも、いくらでも懲罰お受けいたしますよぅ」
「そ、そんなことできるわけないでしょう」
「子爵令嬢のお立場のルチア様ならぁ、それくらいのこと平気で許されるんですよぅ?」

 遠慮なくどうぞとしばらく返答を待つが、それ以上言葉が見つからなかったようだ。閉口したままのルチアに対して、ベッティはもう一度頭を下げた。

「御用がないのでしたら失礼しますねぇ」

 今度こそ出て行こうとしたベッティに、ルチアがぽつりとつぶやいた。

「……八つ当たりしてごめんなさい」

 後悔のにじむ声に振り返る。ベッティですらカイの真意を測りかねているのだ。振り回されっぱなしのルチアに、同情心が湧かないでもなかった。
 とは言え彼女が暴走しないよう細心の注意を払う必要がある。適度にガス抜きをさせつつ、今後も上手いこと手綱を握らなければ。それこそがカイに託されたベッティの大切な役割だ。

「ベッティはルチア様にお仕えする立場ですからぁ、そんなふうにルチア様が謝る必要はございませんよぅ」

 まったく気にしていないそぶりで、ベッティはやさしく笑顔を返した。

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