嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
     ◇
 リーゼロッテ主催の茶会に、ルチアも混ぜてもらった。恐らく落ち込みがちな自分への気遣いだろう。彼女の顔を立てるためにも、今日は頑張って貴族らしく振舞おうと、ルチアはなんとか作り笑いを浮かべていた。
 招待客は思っていたよりも大人数で、リーゼロッテは既婚者たちに囲まれている。自然と令嬢同士が寄り集まって会話に花を咲かせ始めた。独りでいるのも目立つので、ルチアはその端っこにそっと加わった。

「あら、ルチア様。お久しぶりね」
「ご無沙汰しています、ヤスミン様、イザベラ様」

 見知った者を見つけ、ほっと息をつく。社交慣れしたふたりのそばにいれば、この場はうまいこと乗り切れるに違いない。

「リーゼロッテ様もすっかりあちら側に馴染んでらしてるわね」

 ヤスミンの言うあちら側とは、夫人の集まりということだ。令嬢時代の初々しさは鳴りを(ひそ)め、女主人としての風格のようなものが感じられている。

「あら、ヤスミン様だって夏にはあちら側に行くのでしょう?」
「ふふ、そうですわね。実はもうカーク家に移り住んで花嫁修業をしておりますの。イザベラ様こそ、そろそろ縁談が調(ととの)いそうと、わたくし小耳に挟みましてよ?」
「よくご存じね、新年を祝う夜会で正式にお披露目する予定でしたのに。ようやくお父様のお眼鏡に(かな)う殿方が現れて、わたくしもほっとしているところですわ」
「イザベラ様はお父様がお決めになった方と結婚するんですか?」
「そうよ、当たり前じゃない。ルチア様だっていずれそうなるでしょう?」

 イザベラの縦ロールがビヨンと跳ねる。当たり前と言われ、ルチアは唇を噛みしめた。そんなルチアにヤスミンがいたずらな視線を向けてくる。

「ルチア様もうまいことやれば恋愛結婚も夢ではなくってよ? わたくしはキュプカー侯爵家を継がず、カーク子爵家に嫁ぐ道を選びましたし」
「侯爵夫人の座を捨てて子爵夫人に収まろうだなんて、ヤスミン様も本当にもの好きよね」
「一生()()げるんですもの。伴侶になるならわたくしは好きになった相手を選びたいですわ」
「その割には、未来の夫に放っておかれているようですけれど」
「ふふ、殿方同士の社交も大事ですもの」

 鼻で笑ったイザベラに、ヤスミンは余裕の笑顔を向ける。ふたりの視線の先では紳士同士が語り合っており、中でもガタイのいい(いか)つい男がひと際目立って見えた。彼こそがヤスミンの婚約者であるヨハン・カークだ。
 そのヨハンと目が合うと、ヤスミンは小さく手を振った。照れたようにわちゃわちゃと、ヨハンが落ち着きなく手を動かしだした。それを見た周囲の紳士が、一斉に訝しげな顔になっている。

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