嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
     ◇
 新年を祝う夜会は大晦日の夕暮れ時に始まって、翌日の昼まで開催される王家主催の大規模な舞踏会だ。極寒の真冬に開かれる唯一の夜会でもあるため、心待ちにしている貴族も多い。
 いまだむくれ気味のリーゼロッテをエスコートして、ジークヴァルトは夜会の会場に足を踏み入れた。

「なんだ? まだ怒っているのか?」
「だって、ヴァルト様のせいで今朝は恥ずかしい思いをしましたわ」

 世話をしに来た女官たちに乱れた寝所を見られたことに、リーゼロッテは羞恥を覚えているようだ。王城仕えの者が軽々しく口を滑らせるはずもないのだが、リーゼロッテ(いわ)くそういう問題ではないらしい。
 小さく唇を尖らせる姿も可愛くて仕方がない。夜会など放り出して、ふたりきりの部屋に今すぐ逆戻りしたいくらいだ。

「女官に見られたくらいで恥ずかしがることはない」
「ヴァルト様は恥ずかしくなくっても、わたくしは恥ずかしいのです」
「夫婦なんだ。おかしいことではないだろう?」
「けれど王城の客間であのような……。それに夜会前はいつも駄目だと申しておりますのに」
「移動がある時はそうしている。今回はひとつも問題ない」

 その上夕べは体力を使わせないよう、ジークヴァルトは普段以上に気を遣った。無理のない体勢を心がけ、見えるような位置の肌には(あと)を残すこともしていない。
 ゆっくりと丁寧に、()つたっぷり時間をかけて、じわじわと追い詰めるように……もとい、リーゼロッテが最大限心地良くなれるよう、持てる技巧を尽くしたつもりだ。

「もう、問題がありすぎですわ」

 ぷくと頬を膨らませ、不満そうに見上げてくる。眩暈(めまい)がするほどの可愛らしさに、なけなしの自制心が吹き飛びそうになった。
 公爵家の呪いが発動する一歩手前で、貴族たちのざわめきが途絶えた。開始を知らせるファンファーレが鳴り響き、アンネマリー王妃を連れたハインリヒがダンスフロアに現れる。
 ゆったりとしたワルツに合わせ、ふたりのファーストダンスが始まった。簡単なステップに終始しているのは、王妃が産後()もないことが理由だろう。無事に跡取りも誕生し、ハインリヒはさらに頼もしい王となった。そんなひそひそ話が、周囲の貴族たちから聞こえだす。

「素敵……」

 ふいにリーゼロッテが感嘆のため息を漏らした。潤みかけた緑の瞳は王と王妃のダンスを追っている。ジークヴァルトにじっと見られていることに気づいたのか、その頬がほんのり赤みを帯びた。

「わたくしではなくおふたりのダンスをご覧くださいませ」
「オレは昨年も見た。もう十分だ」

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