嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 そっけなく言うとあきれ顔を返される。どんな表情も見逃したくない。さらにじぃっと見つめると、恥ずかし気に顔を逸らされた。

「そんなふうにおっしゃるのなら、わたくしの顔こそもう見飽きておいででしょうに」

 見飽きるどころか、まだまだ足りなさ過ぎるくらいだ。夫婦となった今でさえ、彼女への想いは胸の奥深くでくすぶり続けている。この気持ちを言葉にするのは難易度が高すぎて、結果ジークヴァルトはいつもリーゼロッテの顔を無言で見続けるしかできないでいた。
 居心地悪そうに頬を染めていたリーゼロッテが、ふと真顔になった。少し遠い目をしてダンスフロアに視線を戻す。

「でも、そうですわね……去年わたくしは東宮にいてこの夜会には出られませんでしたし、一年前のことを思うと、今こうしていられるのが本当に奇跡のように感じられますわ」

 昨年この夜会には、ジークヴァルトはひとりきりで出席した。長居をする理由が見いだせず、開始早々会場を後にしたことを思い出す。
 甘えるようにリーゼロッテはこてんと頭を寄せてきた。強引に腰を引き寄せそうになって、ジークヴァルトは寸でで自制した。これをやらかすとリーゼロッテに可愛らしく怒られてしまう。
 代わりにやさしく抱き寄せる。夜会巻きのおくれ毛を、乱さない程度に指に絡めた。
 リーゼロッテが神殿に囚われていた間のことは、正直あまりよく覚えていない。自分がどう過ごしていたのかも記憶になくて、怒りと喪失をさまよう絶望の日々に、正気を保てていたのかも怪しいところだ。
 そうこうしているうちにダンスが終わり、王と王妃は壇上に移動した。貴族たちが見守る中、ハインリヒの重々しい声が悠然と響き渡る。

「聞け、みなの者。過ぎる年に感謝し、(きた)るべき新年を祝う夜会の始まりだ。今宵ばかりは(うれ)いを忘れ、存分に楽しむといい」

 歓声が上がり、貴族たちは各々動き出した。リーゼロッテの手を引いて、ダンスフロアへと向かう。二曲続けてふたりで踊り、フロアを出る途中でティール公爵に掴まった。約束だからと、仕方なくリーゼロッテと一曲だけ踊らせて、これ以上他の奴らが近づかないようジークヴァルトは徹底的に周囲を睨みつけた。
 貴族たちの合間に異形の者の黒い影が見え隠れしている。人間の数が多ければ多いほど、異形も(たち)の悪い者が集まりやすい。そのため用が済んだら早めに帰るのはいつものことだ。
 とは言え公爵の立場ともなると挨拶に来る者たちも多いため、立ち止まっては会場の出口へ向かっていく。本当ならリーゼロッテを抱き上げて、さっさと部屋に戻りたいジークヴァルトだった。

「リーゼロッテ、久しぶりね」
「アデライーデ様……!」

 大公バルバナスに連れられた姉のアデライーデに出くわした。話が長くなりそうな予感がして、ジークヴァルトの眉間にしわが寄る。

「なんて素敵なドレス! お姉様にとってもお似合いですわ」
「今日はバルバナス様の女()けよ。本当は騎士服を着てリーゼロッテと踊りたかったのだけれど」

 着飾ったドレスの肩をアデライーデは軽くすくませた。右目に眼帯がなければ、どこから見ても立派な公爵令嬢だ。

< 330 / 522 >

この作品をシェア

pagetop