嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「要望に(こた)えるか?」
「お応えなどいたしませんっ」

 腕を伸ばすと、半歩体をずらされた。

「遠慮はするな。お前は軽い」
「ヴァルト様のお腰を心配しているわけではありませんわ!」
「ったく、お前ら死ぬまで勝手にやってろ」

 呆れたように吐き捨てたバルバナスの横で、アデライーデはさらにいたずらな笑みを浮かべた。

「ついでに言うとリーゼロッテがデビューの夜会で、ダンス中にヴァルトがこう、リーゼロッテをふわっと高く持ち上げたでしょう?」
「あれはクラーラ様がお転びになったから……」

 あのときは踊りの真っ最中だったが、衝突を()けるためにジークヴァルトはとっさにリーゼロッテを高々と抱えあげた。

「でね、あれをして欲しいとせがむ令嬢も多かったらしくて。だけど舞踏会中に怪我人続出で、さすがにそれは王命で禁止令が出されたのよ」
「お、王命で禁止令が……」
「お前ら、滅多に顔を出さねぇくせに、話題だけは事欠かねぇな」
「それだけふたりは注目の的ってことね。ヴァルトもやっかみをうけたりしないよう、ちゃんとリーゼロッテを守るのよ?」
「言われなくても分かっている」

 いっそ部屋に閉じ込めて外へは一歩も出したくないと、常々思っているジークヴァルトだった。
 アデライーデたちと別れ、その後も出くわした貴族と言葉を交わした。少し進んでは声を掛けられ、遅々として出口に近づけない。

「あ、カイ様……」

 リーゼロッテが見やった先、騎士服を着たカイの姿があった。会場の(すみ)(たたず)み、隙のない視線で貴族たちの流れを追っている。

「カイは職務中だ。挨拶などは必要ない」
「はい、ヴァルト様」

 素直に頷いたリーゼロッテが、思い出し笑いをするかのようにふふと笑みをこぼした。

「どうした?」
「いえ、今年はカイ様がカロリーネ様姿でなくてよかったと思いまして。あ、これは秘密のお話でしたわね」

 リーゼロッテはあわてて口元に手をやった。

「申し訳ございません。わたくしの独り事ですので、お気になさらないでくださいませ」
「……そうか」

 自分以外の男の名が出る独り言など、気にするなという方が無理がある。むしろ(ゆる)し難く思えてしまう自分は、アデライーデが言うように狭量な男なのだろうか。

「どうかなさいましたか?」
「いや、問題ない」

 平静を装うジークヴァルトの頭の中では、これから戻る王城の客間で、リーゼロッテを独り占めする算段が完璧に整えられていたのだった。

< 332 / 522 >

この作品をシェア

pagetop