嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 イザベラも今日の夜会で婚約披露をすると言っていた。今掴まるこの腕が、大好きなカイのものだったなら。そんなことを思って、ルチアはため息交じりにブルーメ子爵の横顔を見上げた。

「ルチアにも良縁を探さねばな。そこのところはわしに任せるといい、うん」
「……はい、お義父様」

 そうとしか返事ができなくて、ルチアはしゅんとうつむいた。

(どうして話しちゃいけないんだろう)

 ふたりのことは誰にも知られてはいけないと、何度もカイに言い含められた。愛し合う仲なのだから、正直に話せば子爵はちゃんと受け入れてくれると思うのに。それでも二度と会わせてもらえなくなるという、カイの言葉が怖かった。
 以前エマニュエルにされた話も、ずっとルチアの中で引っかかっている。例え駆け落ちしたとしても、連れ戻されて意に沿わない結婚が早まるだけだ。万が一自分たちもそうなったらと思うと、誰にも言い出せないでいるルチアだった。

「あれ……?」

 行き交う貴族の波の向こうに、父親に連れられたイザベラを見つけた。普段以上に不機嫌そうな表情をしていて、近くにいる貴族たちはみな、そんなイザベラから不自然に距離を取っている。

(どうしたんだろう。今日は婚約のお披露目だって言ってたのに)

 それならば、婚約者にエスコートされていそうなものだ。イザベラの近くを見回すも、それらしき紳士はいなかった。
 目の前にいたご夫人方の会話が、ふと切れ切れに聞こえてきた。ひそひそと耳打ちしあい、その声音は幾許(いくばく)かの(あざけ)りを含んでいる。

「ねぇ、お聞きになった? ブラル伯爵家のイザベラ様のこと。この場で婚約発表をするはずだったのに、下位の令嬢にしてやられたって話よ?」
「してやられたって一体何を?」
「それがここだけの話、婚約者を寝取られたんですって! で、婚約相手はあっさりそちらに鞍替えしたらしいわ」
「まあ、なんてこと!」

 不穏な内容に驚いて、ルチアは思わず耳をそばだてた。ご夫人たちは隠す気もないようで、内緒話の(てい)だけ保ち、興奮気味に会話を続けている。

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