嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 色を失くしたルチアを見て、リーゼロッテが不思議そうに小首をかしげた。しかし彼女もカイの状況を理解したのだろう。すぐに気づかわしげにルチアの顔を覗き込んできた。

「職務中ですもの。気分の悪くなった方をお連れしているのではないかしら?」
「そう、でしょうか……?」
「お酒を召して具合を悪くされる方って結構いらっしゃるのよ。だから」

 言われてみれば、悪酔いした夫人を休憩室に案内しているだけのようにも見える。そう思いかけたとき、もたれ掛かった夫人が顔を寄せ、カイの首筋に大胆に吸い付いた。
 人目を(はばか)らない夫人の行為に、リーゼロッテも言葉を失ったようだ。熱烈な口づけを受けたカイは、(ほが)らかな笑顔のまま夫人をさらに近く抱き寄せた。

「る、ルチア様、あの、ここだけの話なのですけれど、カイ様はああやってよく潜入捜査を……」
「何の話をしている?」

 眉をひそめた公爵が、リーゼロッテを腕の中に閉じ込めた。まるでルチアに嫉妬するかのごとく、最愛の妻を隠すように抱え込む。

「もう、ヴァルト様、大事なお話をしておりましたのに」
「こちらが長話をしすぎましたな。いや、なんとも無粋な真似を」
「いいえ、ブルーメ子爵様のせいでは……」

 否定するリーゼロッテとは対照的に、公爵の仏頂面(ぶっちょうづら)に拍車がかかっている。恐縮したブルーメ子爵は、ルチアを連れてそそくさとふたりの元を離れた。
 カイの姿を目で追うも、連れ立った夫人と会場外へと行ってしまったようだ。

(カイ……なんでほかの女なんかと)

 いまだ信じられない思いだった。白の夜会で似たような場面を見かけたが、あれはカイとルチアが結ばれる以前の出来事だ。リーゼロッテが言いかけたように、先ほどは任務を果たしているだけだったのだろうか。
 いろんな思いが交錯して、青ざめたままルチアは子爵に付き従った。

「ルチアもだいぶ疲れているようであるな。おお、ベンノ、ちょうどいいところに」
「これはインゴ叔父上」

 ベンノは子爵の甥で、歳はルチアよりも十ほど上の男だ。少し酔った様子の赤ら顔で、不躾な視線をルチアへと向けてくる。

「わしはまだ挨拶回りがあるのでな、しばらくルチアについていてくれないか?」
「ええ、もちろん。彼女は責任をもってお預かりします」
「怪我が回復したばかりであるからな。ルチアはしばらくベンノとここで休んでいるといい」

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