嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
ほどなくして線の細いひとりの夫人が現れた。カイの姿を認めると、その夫人はおずおずと部屋の中に入って来る。
「カイ・デルプフェルト様……」
「これはデーラー伯爵夫人。このような場所にどうされましたか? ご婦人向けの休憩室は別にありますよ」
この並びの部屋は、専ら、いたしたい男女が籠るための休憩室だ。彼女は新婚で、夫であるデーラー伯爵は社交界でも堅物で知られている。そんなふたりがこの場を利用するとは思えなくて、カイは人好きのする笑顔で問いかけた。
「いえ、わたくしは迷ったのではなく、ここへはあなたを追って参りました」
「わざわざわたしを追って?」
「ええ、折り入ってデルプフェルト様にお頼みしたいことがございまして……」
ためらいがちな顔つきで、それでも夫人は後ろ手に扉の鍵をかちゃりと閉めた。密室となった休憩室は、微妙に緊張をはらんだ空気に包まれる。
積極的で貞操観念の低いご夫人ならば、こういった状況も予想の範疇と言えた。しかし彼女は恐らく、火遊びには向かないタイプの人間だ。
堅実な人生を歩んできた者ほど、道を踏み外した際は深みに嵌りやすいものだ。一度彼女に手を出したが最後、あと腐れなく別れるのに苦労するのは想像に難くない。
これはイグナーツ直伝の男の勘だ。もし仮に彼女が捜査対象だったとしても、慎重に近づき方を考えることだろう。
「お願いです! デルプフェルト様、わたくしを抱いてくださいっ」
ド直球に告げられて、思わず苦笑いしそうになった。彼女はやはり男女の駆け引きとは縁遠い人種のようだ。ルチアの身じろぐ気配がしたが、構わずカイは夫人の顔を無言でじっと見続けた。
「あ、あの、デルプフェルト様は女の扱いがお上手と伺っております。ですからわたくしにも女の悦びを教えていただきたくてっ。はしたないことを言っているのは重々承知しています。一度きりでもいいのです。どうかわたくしにデルプフェルト様の慈悲を与えてくださいませ!」
夫人は早口でまくし立てた。やましい思いを抱える者は、やたらと饒舌になるものだ。
「なぜわたしに? 夫人にはご立派な夫君がおられるでしょう?」
「その……わたくし、夫では物足りなくて……」
「物足りない?」
デーラー伯爵は厳格に規律を守るような男で、真面目を絵にかいたような人物だ。だが爵位を継ぐ前は騎士団に所属しており、筋肉隆々のいい体つきをしている。夜の相手を務めるには、この線の細い夫人では逆に負担になるように思えた。よほどモノがお粗末と言うことか。
「カイ・デルプフェルト様……」
「これはデーラー伯爵夫人。このような場所にどうされましたか? ご婦人向けの休憩室は別にありますよ」
この並びの部屋は、専ら、いたしたい男女が籠るための休憩室だ。彼女は新婚で、夫であるデーラー伯爵は社交界でも堅物で知られている。そんなふたりがこの場を利用するとは思えなくて、カイは人好きのする笑顔で問いかけた。
「いえ、わたくしは迷ったのではなく、ここへはあなたを追って参りました」
「わざわざわたしを追って?」
「ええ、折り入ってデルプフェルト様にお頼みしたいことがございまして……」
ためらいがちな顔つきで、それでも夫人は後ろ手に扉の鍵をかちゃりと閉めた。密室となった休憩室は、微妙に緊張をはらんだ空気に包まれる。
積極的で貞操観念の低いご夫人ならば、こういった状況も予想の範疇と言えた。しかし彼女は恐らく、火遊びには向かないタイプの人間だ。
堅実な人生を歩んできた者ほど、道を踏み外した際は深みに嵌りやすいものだ。一度彼女に手を出したが最後、あと腐れなく別れるのに苦労するのは想像に難くない。
これはイグナーツ直伝の男の勘だ。もし仮に彼女が捜査対象だったとしても、慎重に近づき方を考えることだろう。
「お願いです! デルプフェルト様、わたくしを抱いてくださいっ」
ド直球に告げられて、思わず苦笑いしそうになった。彼女はやはり男女の駆け引きとは縁遠い人種のようだ。ルチアの身じろぐ気配がしたが、構わずカイは夫人の顔を無言でじっと見続けた。
「あ、あの、デルプフェルト様は女の扱いがお上手と伺っております。ですからわたくしにも女の悦びを教えていただきたくてっ。はしたないことを言っているのは重々承知しています。一度きりでもいいのです。どうかわたくしにデルプフェルト様の慈悲を与えてくださいませ!」
夫人は早口でまくし立てた。やましい思いを抱える者は、やたらと饒舌になるものだ。
「なぜわたしに? 夫人にはご立派な夫君がおられるでしょう?」
「その……わたくし、夫では物足りなくて……」
「物足りない?」
デーラー伯爵は厳格に規律を守るような男で、真面目を絵にかいたような人物だ。だが爵位を継ぐ前は騎士団に所属しており、筋肉隆々のいい体つきをしている。夜の相手を務めるには、この線の細い夫人では逆に負担になるように思えた。よほどモノがお粗末と言うことか。