嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「あ、いえ、もっと激しくしてほしいのに、夫はいつでもやさしすぎて……」
「それなら話は簡単です。どうして欲しいのかを素直に伯爵に伝えてみるといいですよ」
「そんなことできません!」

 夫人は興奮気味に詰め寄ってくる。これ以上来られるとルチアに気づかれてしまいそうで、カイは自ら夫人に一歩近づいた。注意を逸らすため、わざと耳元に顔を近づける。

「なぜ? 言葉にするのは恥ずかしいですか?」
「は、はい……夫に(つつし)みのない女と思われることが怖くって……」

 カイに思われる分には何ともないらしい。ひいては、彼女は夫をきちんと愛しているという事だろう。

「なるほど。そういうことならこれを差し上げますよ」

 先ほどルチアを襲った男から取り上げた媚薬の瓶を取り出した。不思議そうに夫人は首を傾ける。

「これは……?」
「ご存知ありませんか? これは媚薬です」
「媚薬?」

 箱入り娘にはこういう情報を与えない貴族もたまにいる。よほどの温室育ちなのだろうと、カイは夫人の手を取り小瓶を握らせた。

「合法のものなので心配はいりません。飲めば恥ずかしさも消えて大胆に振る舞えますよ」
「で、でもこんなものを使ったら、ふしだらに思われてしまうわ」
「でしたら筋書きはこうです。まず、寝室の目立つ場所にこの瓶を置いてください。それを夫君が目に留める」
「そんなっ、驚かれて離縁になりそうだわ!」
「大丈夫ですよ。当然夫君はこれが媚薬だとすぐに気がつくでしょう。ですがあなたは何も知らないふりをしてください。これをどうしたのかと聞かれたら、今日の夜会で気分の悪くなった夫人を助けた際に、お礼で貰ったとでもするといいでしょう。中身は……そうですね。美容にいい飲み物と言って渡されたと説明してください」

 カイの言葉に、夫人は手にした媚薬をじっとみつめた。

「そ、それで続きはどうすればよろしいの?」
「あなたは夫君の目の前でそれを飲んで見せます。もし夫君が飲むのを止めてこなかったら……」
「止めてこなかったら……?」

 期待に満ちた瞳で見つめられ、夫人の喉がごくりと鳴った。これで面倒事はうまいこと回避ができそうだ。

< 345 / 522 >

この作品をシェア

pagetop