嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 近くの作業台には何色も絵の具が乗ったパレットと、彩の付いたままの筆が数本置かれていた。絵の具が乾ききっていなかったら、今まさに筆を取っていたと錯覚してしまいそうだ。
 この絵筆が置かれてから、どれだけの時が過ぎたのだろうか。止まったままの時間を動かすように、マルコは覆いかぶさっていた布をひっぱり落とした。

「――……っ!」

 息を飲み、言葉を忘れる。
 目の前に現れたのは裸婦(らふ)画だった。クッションがいくつか置かれたベンチの上で、一糸まとわぬ若い女性が恥ずかしげに瞳を伏せている。木漏れ日のあふれるその場所は、先ほど外で見たガゼボのようだ。

「な……んでこんな絵が……」

 肉付きの良い美しい肢体が、惜しげもなくマルコの前に(さら)されている。女性の裸を目にするなど、幼馴染の少女と水浴びをしたくらいのものだ。見てはいけないと思うのにどうしても目が離せない。

「うっ」

 体の中心に熱が集まり、痛いくらいに股間が張り詰めた。突然の衝動に、マルコはアトリエから逃げるように飛び出した。
 木々が生い茂るトンネルを突っ切って、東屋の寝室へと駆け込んでいく。寝台にもぐりこみ、おさまらない動悸にぎゅっと目をつぶった。

(ボクは神官なのに……!)

 罪悪感に(さいな)まれ、それでも先ほどの女性の裸が脳裏を離れてくれなかった。神官が所帯を持つこと自体は許されている。だが自分には縁遠いことだと思っていた。
 早く落ち着かなくては。もうすぐ女官が朝餉(あさげ)の膳を運んでくる時間帯だ。

 結局いつまで経っても寝台からは出られずに、やってきた女官には仮病を使うしかないマルコだった。

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