嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 赤子への授乳は相当体力を消耗すると聞いたことがある。身の回りの世話は女官がしてくれるにしても、かなりハードな毎日なのだろう。

(産後太りで悩むひとも多いらしいけど、アンネマリーは胸以外もうほっそり体型ね)

 アンネマリーが動くたび、大きな胸がゆさゆさ揺れる。出産直前に会ったときよりも、その存在感は半端なかった。リーゼロッテの視線を感じたのか、アンネマリーは苦笑いとともに小さく肩をすくませた。

「そうは言っても、吸ってもらわないことには胸が張って仕方ないのよ。肩も凝るし、もっといっぱい飲んで欲しいくらいだわ」
「つらいときはいくらでもわたしが引き受けるよ」
「もう、ハインリヒったらまたそんなことを……」

 いきなりのハインリヒの登場に、リーゼロッテは慌てて礼を取った。王位に就いてからと言うもの、彼から感じる威圧感は王太子時代のものとは比較にならない。
 どこか遠くを見据える瞳は威厳に満ちており、今聞こえた台詞の内容は空耳だったのではと思えるほどだ。

「ああ、いいよ。ここではもっと気を楽にして過ごすといい」
「ありがとうございます、ハインリヒ王」

 アンネマリーの横を王に譲り、ジークヴァルトの隣へと移動する。膝の上に乗せられそうな気配を察知して、延ばされる手を牽制しながらリーゼロッテは無事ソファへと腰を下ろした。

 ハインリヒがアンネマリーの頬にやさしい口づけを落とす。ともすれば冷たく感じられる王の瞳に、(ほの)かな暖かみが宿った。アンネマリーも安心しきった様子で、ハインリヒの肩にもたれかかっている。
 王と王妃という重圧から解放される時間なのだろう。相変わらずラブラブなふたりのことを、リーゼロッテは微笑ましく眺めやった。

「そう言えばカイから聞いたよ。義母上が突然無理を言ったようだね」
「いえ、無理だなんてとんでもございません。イジドーラ様のご提案に、フーゲンベルク家も前向きに検討しておりますわ」
「もしかしてリーゼが贈ってくれた髪の美容液の件?」

 自身の髪に手をやって、アンネマリーが小首をかしげた。

「あれをもらって以来、髪の調子がとてもいいの。絡まないし、女官たちも手入れが楽になったと言っているわ」
「そう、ならよかったわ。わたくしも自分で使ってみてとてもいい感じだったから、アンネマリーにも是非にと思って」

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