嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 この国で社交界デビューは十五歳を過ぎてからだ。だが爵位の高い家では、身内の夜会で子供の披露を早めに行うのが(つね)だった。そんな場で婚約を知らしめたということは、ダーミッシュ家が余程うまいことやったのだろう。そんな声があちこちから聞こえてくる。

 利害関係がこじれると、婚約は契約破棄されることもある。早いうちに結ばれた婚約ほどその道をたどるため、正式発表はぎりぎりまで()けるものだ。そんな理由もあり貴族の間では、ダーミッシュ伯爵は一目置かれる存在となっていた。

 その跡取り息子が真剣な表情で、レルナー公爵令嬢をダンスフロアへとエスコートしていく。初々しいカップルを見て、多くの貴族が微笑ましい視線を向けた。
 オーケストラの演奏とともにファーストダンスが始まった。緊張した面持(おもも)ちのツェツィーリアを、ルカはしっかりとリードしていく。その凛々(りり)しい姿をリーゼロッテは誇らしく見守った。

 広いダンスフロアで、ふたりは堂々と一曲踊り上げた。拍手喝采を送られながら、ルカとツェツィーリアが奥へと退場していく。

「なんだ、我らがお姫様の出番はもうお(しま)いか?」
「お披露目は有終の美を飾ってこそ、と言うものよ、ユリウス」

 (おうぎ)で口元を隠したカミラが意味深に言う。レルナー家が恥をかかないために、粗相をしないうちにツェツィーリアを引っ込めたということだろう。

「これからは大人の時間ということか」

 ユリウスは開放されたダンスフロアに視線を向け、にかっと笑顔を向けてくる。

「おう、お前らも行ってこい。今日は夫婦のお披露目に来たんだろう?」
「ですが先にレルナー公爵様にご挨拶を……」

 招かれた夜会では、まずはその家の主人に挨拶しに行くのが礼儀だ。

「何、あとで行けばいいさ。あの人だかりだ。遅めくらいで丁度いい」

 見やると、レルナー公爵の周辺は貴族たちでごった返している。確かにあそこに突っ込んでいくのはためらわれた。ジークヴァルトを見上げると、静かに頷き返される。ダンスフロアへと移動して、流れ出した音楽にあわせてふたりでステップを踏み出した。

 周囲の視線を強く感じるが、不思議と緊張はしなかった。今夜のふたりはどう見ても夫婦の装いだ。ジークヴァルトの妻になったことを、むしろもっと周囲に見せつけたい。そんな思いでいっぱいになった。

 もうほかに何も目に入らない。ジークヴァルトの青い瞳と見つめ合って、リーゼロッテは夢見心地で踊り続けた。

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