嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 生い茂る庭木に埋もれたアーチの前で立ち止まる。この先へはあの日以来一度も行くことはなかった。意を決し、枝をかき分けトンネルをくぐり抜けていく。
 もうひとつの庭に出て、マルコは真っ先に奥のガゼボに足を向けた。

「やっぱり夢のまんまだ……」

 幾分かは朽ち果てているものの、寸分違わず同じ風景だ。
 振り返った雪の庭の、ちょうどあの辺りにかの人はいた。このベンチに座り、いまだ裸体を見られている。そんな奇妙な気分に(おちい)った。

 うれしくて、恥ずかしくて、でも見て欲しくて、直接その手で触れられたくて。

 急速に、あのときの感情が湧き上がってくる。切ない思いに胸が締めつけられ、苦しくなったマルコは逃げるように丸太小屋に駆け込んだ。

 (とどこお)った空気の部屋は、あの夢と同じにおいがした。
 画架(イーゼル)に乗せられたままの画板に歩み寄る。改めて絵をまじまじと見た。木漏れ日のガゼボで、裸の女性が恥ずかしげに瞳を伏せている。

 今なら分かる。ここに描かれた女性は、これを描いた人物に恋心を抱いているのだと。

 瞳を伏せているようで、こちらを盗み見しているようにも見える。
 彼の瞳に、自分はこんなふうに映っていたのだ。言いようのない甘美な熱が、手の届かないような心の奥に再び火を灯す。

「違う。この絵を見たから……だからあんな夢を見たんだ」

 言い聞かせるようにつぶやいて、マルコは床に落ちていた布で絵を覆い隠した。ここに来るのはもうやめよう。そう思いながら丸太小屋を出た。

「……コ? マルコ……ど……にいるの……?」

 遠くから少女の声がする。はっとして、急ぎ(やぶ)のアーチを走り抜けた。
 出戻ったいつもの庭で、(つた)が絡まる鉄柱の合間に鮮やかな赤毛が見え隠れしている。

「ピッパ様!」
「もう! 遅いわマルコ。いつでもここにいるよう言ったでしょう?」
「す、すみません」

 理不尽な命令にマルコは素直に頭を下げた。初めて会った日以来、ピッパは時折ここへとやってくるようになった。(さく)越しではあるものの、この閉ざされた箱庭で彼女はマルコが会話をできる唯一の相手だ。

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