嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「今日は早いんですね」
「そうなの! ルイーズにばれない良い方法が見つかったのよ!」
「はぁ、それはよかったですね」

 ピッパは気まぐれで、ずいぶんと気分屋な少女だった。長いことおしゃべりする日もあれば、ちょっとしたマルコの言葉に腹を立て、すぐに帰ってしまう日もあった。

 それでも次に現れたときは、何事もなかったように接してきたりする。自分の言うことは誰もが知っているのが当然で、世界は自分を中心に回っていると本気で思っているような少女だった。

 何度も会って話をする内に、彼女は王妹なのだとようやく悟った。国の情勢や王族のことなど、まるで興味のなかったマルコだ。王族だと分かったあとも、ピッパはおしゃまな女の子にしか思えない。

 下手なことを言うと機嫌を損ねてしまうため、支離滅裂なおしゃべりをいつも黙って聞くことにしている。
 今日も時々相槌(あいづち)だけを打ちながら、風に揺れるピッパの髪をマルコはぼんやりと見続けた。

(そういや、あの人も綺麗な赤毛だったな……)

 顔立ちもどこか似ているような気がする。だとすると、夢の中の彼も王族だったのだろうか。
 いまだ心は現実と夢の狭間を行き来している。マルコは知らず小さくため息をついた。

「ちょっとマルコ。ちゃんと聞いてるの?」
「えっ、あの、いえ、すみませんっ」
「もういいわ。行きましょう、アムゼル」

 黒い小鳥を肩に乗せ、ピッパはつんと顔をそらして行ってしまった。

「また怒らせちゃったな……」

 ここへはもう、来てくれなくなってしまうだろうか。
 そう落胆しかけたとき、別の方向の茂みが激しく揺れ動いた。派手に雪を振るい落としながら、何かがこちらへと迫ってくる。

「――……!」

 庭木をかき分け現れたのは、ひとりの令嬢だった。その姿に息を飲む。

 鮮やかな艶めく赤毛。陽射しを返す宝玉のような金色の瞳。

「ウルリヒ様……?」
 なぜかその名が口をついた。

「急にお邪魔してごめんなさい。わたし人を探してて」
「人を……?」

 自分はまだ夢を見ているのだろうか。
 働かない頭のまま、マルコは令嬢の顔にくぎ付けになった。

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