嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
      ◇
「ピッパ様はこの先の部屋にいらっしゃるわ。お行きなさい」
「え? ひとりでですか?」
「当然よ。呼ばれたのはあなただけだもの」

 それだけ言うと、ツェツィーリアはさっさと行ってしまった。
 王妹がどうして自分などに会いたがるのか。戸惑いながらも、ルチアは仕方なく扉を叩いた。
 しかし待てども返事はない。もう一度叩くと、不機嫌そうな声が返ってきた。

「なに? 物書きならちゃんとやっているわ」
「ルチア・ブルーメと申します。お呼びにより参上いたしました」
「誰? 呼んだ覚えなどないわ」
「え……その、わたくし、ツェツィーリア様に連れて来られまして……」
「ツェツィーリアに?」

 しばらく間があって、いきなり扉が開かれた。
 見下げた位置に自分とよく似た赤毛の少女がいた。ぱちくりとしばし少女と見つめ合う。しかし彼女こそが王妹なのだと気づき、ルチアは慌てて礼を取ろうとした。

「あなたね、ツェツィーリアが言っていたわたくしに似ている令嬢というのは!」

 腕を引っ張られ、中へと(いざな)われる。

「もっとよく顔をお見せなさい。本当だわ。目の色も髪の色も何もかもわたくしにそっくり!」

 膝を付かされ、両手で頬を挟まれる。興奮気味な様子で、ピッパはルチアの顔を間近から覗き込んできた。

「あなた、名は?」
「る、ルチア・ブルーメと申します」
「ルチアね、覚えたわ。あなたの父親は王族の誰?」
「いえ、わたくしは子爵家の人間で……」
「子爵家なの? どうして? こんなにわたくしとそっくりなのに」

 どうしてと言われても、ルチアに答えようがあるはずもない。言葉に詰まって黙っていると、おもちゃに飽きたかのようにピッパはルチアの顔から手を離した。

「ちょうどいいわ。あなた、代わりにこれをやっておいて」

 差し示された机には、手習いの練習帳が広げられていた。真っ黒い小鳥が黄色い(くちばし)で、置かれた筆を楽しそうに(つつ)いている。

 手を引かれ、椅子に座るよう促される。羽織っていたショールをとると、ピッパはそれをルチアの肩に掛けてきた。

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