嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 足元にあった何かに(つまづ)いたルチアを、青年が抱き支えた。倒れそうな背に腕を回されて、ルチアも青年に(すが)りつく。

 耳元で青年の息づかいが聞こえた。次いでごくりと喉が鳴らされ、腰を掴む手に力が入ったのが分かった。
 密着した肌から激しい鼓動が伝わってくる。彼は自分に興奮しているのだ。カイとは違う(オス)のにおいをルチアは本能的に感じ取った。

 ――いろんな奴と試してみるといい

 あの日のカイの言葉が蘇る。急速に湧き上がった苛立ちを押さえられなくて、ルチアは挑発するように青年の瞳をじっと見た。

「ねぇ、わたしとしたい?」
「え……?」

 戸惑った様子の青年は、それでも至近距離から動かない。片手を導き、自分の胸に押しつけた。
 息を飲む唇をためらいなく塞ぐ。逃げようとする頭を片手で押さえ、ルチアは無理やりに口づけを続けた。

 背に回った青年の腕に力がこもる。(たが)が外れた乱暴な動きに、身をよじるも抜けだせない。唇をこじ開けられて、生温かい舌が入り込んできた。

「いや……っ!」

 急に恐怖が膨らんで、ルチアは力の限り青年を突き飛ばした。
 震える唇を押さえ、瞳から涙があふれ出してくる。我に返った青年の顔が、見る見るうちに青ざめていった。
 何か言葉を発しようと、青年の口が開きかける。それを耳にする前にルチアは東屋を飛び出した。

(気持ち悪い……!)

 カイ以外の誰かとどうこうするなど、なぜそんな馬鹿なことを考えてしまったのか。

(やっぱり無理。わたし、カイじゃなきゃ駄目)

 自分にはもうカイしかいないのだと、絶望の中、ルチアは闇雲に雪の庭を走り抜けた。

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