嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「必要なことがあったらいつでもお言いなさい」
「そのときは遠慮なく」

 儀式のようなやりとりが今日もまた繰り返される。イジドーラにできるのは、これまで通り次の訪れを信じるのみだ。

「カイ、こちらにいらっしゃい」

 琥珀の瞳を見上げ、姉譲りの灰色の髪に手を伸ばす。
 この背を越されたのはいつのことだったろうか。幼かった時分と変わることなく、イジドーラは愛しくカイを抱きしめた。

「そろそろ失礼します。ディートリヒ様もしびれを切らしているようですから」
「まぁ、ディートリヒ様。いらしていたのならお声がけくださればよかったのに」

 夫たるディートリヒが仏頂面(ぶっちょうづら)で壁にもたれ掛かっていた。ディートリヒはカイが来るといつもあんなふうになる。(かんむり)を降ろしてからの彼は、まるで駄々をこねる子供のようだ。

「では、御前失礼させていただきます」

 いつものように丁寧な動きで礼を取ったカイに向けて、ディートリヒが自ら扉を開けた。

「オレがそこまで見送ろう」
「光栄です」

 滅多にない光景に驚きを隠せなかった。いつものディートリヒなら、カイを追い出したあとすぐに扉を閉めているところだ。
 しかし今日のカイを見て、ディートリヒにも思うところがあったのかもしれない。やりきれない思いばかりがこみ上げる。

 それでも悔いを残さないために、イジドーラはカイの後ろ姿を目に焼きつけた。

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