嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 ディートリヒと別れ、後宮の廊下を進む。出口付近に近づくにつれ、慌ただしく駆け回る女官が目についた。

「わたくしは知らないわ。連れてきたのはツェツィーリアだもの」
「ではこの文字は誰が書いたというのですか!? 知らないなどとそのような見え透いた言い訳を」

 遠くからそんな会話が耳に届く。あの声はピッパと女官のルイーズだ。
 いつもの小言にしてはルイーズの語調が強めに思えた。ピッパがとんでもないことでもやらかしたのだろうか。

「ルイーズ殿? 何かあったのですか?」
「これはカイ様、いらしていたのですね」
「カイ! 聞いて、ルイーズったらひどいのよ!」

 飛びつくように抱き着くと、ピッパはそのままカイの後ろへと回り込んだ。カイを盾にして、ルイーズから距離を取る。

「ピッパ様、今日はどんな悪戯(イタズラ)をなさったのですか?」
「失礼ね。誰も悪戯なんかしていないわ。わたくしはツェツィーリアが連れてきた令嬢にあれをするよう命じただけよ」
「十分、悪質な悪戯でございます。真面目に手習いをしていらっしゃると思えば、こんなことになっていようとは……」

 眉間に手を当てルイーズがため息をつく。ピッパの奔放さは母親のイジドーラ譲りのようだ。

「何よ、ルイーズだってわたくしと見分けがつかなかったくせに」
「ピッパ様と見分けが?」
「そうなの! 驚くほどわたくしにそっくりな令嬢なのよ! 名は……なんて言ったかしら? とにかく髪も目も、わたくしとまるで同じ色をしていたの!」

 興奮気味にピッパはまくし立ててくる。まさかとは思いつつ、確認のためカイはルイーズを窺った。

「ツェツィーリア・レルナー様が、お付きの者として令嬢をひとりお連れになったのです。準女官の資格を持つとのことで、下の者が独断で後宮に入る許可を出してしまったようで……」
「その令嬢とはもしや、ルチア・ブルーメ子爵令嬢ですか?」
「ルチア! そうよ、確かにそんな名だったわ!」

 声を弾ませるピッパに、ルイーズが片眉をくいと上げた。

「それで、ピッパ様。そのブルーメ子爵令嬢をどこにお隠しになったのですか?」
「だから知らないと言ってるでしょう? わたくしが戻ったら、ここにはもういなかったんだもの」

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