嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 ふたりの話をよくよく聞くと、ピッパの身代わりをしていたルチアが忽然と姿を消してしまったらしい。ツェツィーリアは控えの部屋にずっといて、ルチアは戻ってきていないとのことだった。

(それで慌てた女官たちが総出で探し回ってるってわけか)

 よほどルチアは脱走が好きなようだ。

「わたしも手伝いますよ。後宮(ここ)は広いですから」

 (せわ)しなく行き来する女官を横目に、カイは王妃の離宮に向かう廊下を進んでいった。離宮周辺は王子が誕生したばかりで警備体制が厳重となっている。万が一ルチアがそちらへ向かったとしたらやっかいだ。

 案の定、雪の庭を誰かが歩いた形跡があった。後宮と離宮をつなぐ渡り廊下は屋根付きの石畳が敷かれており、庭を突っ切るように長く伸びている。しかし残された足跡は、その方面とは逆側に続いているようだった。
 女官が外までルチアを探しに行った様子はない。この雪の中を令嬢がひとりで出て行くなどと、夢にも思わなかったのだろう。

(だとしたら、この足跡はルチアがつけた可能性大だな)

 痕跡をたどっていくと、途中から道なき道を進んでいる。挙句の果てには、生垣を無理やり通った様子が見て取れた。
 いくらルチアでもそんな無茶はすまいと思いつつ、実際に植木が荒らされている。この先は後宮のさらに奥まった場所だ。別の不審者の存在を疑うべきかと、カイの表情が(けわ)しくなりかけた。

「へくしっ」

 遠くから聞こえた間の抜けたくしゃみに、緊張は苦笑いに早変わりした。離れた茂みの中で、鮮やかな赤毛が見え隠れしている。
 気配を殺して近づいた。植木の影を覗き込むと、濡れ(ねずみ)の状態のルチアが小さくうずくまっている。

「ねぇ、ルチア。こんなとこいて寒くない?」
「きゃあっ」

 背後から声をかけると、ルチアは飛び上がらんばかりに驚いた。髪が張りつく頬は青白く、先ほどからずっとかちかちと歯を鳴らしている。

「か、カイ!? なんでここに……」
「立てる?」

 手を取って茂みから引っ張り上げた。握る指先も氷のような冷たさだ。見ているこちらまで寒くなりそうだと、脱いだジャケットでルチアの肩を包み込んだ。

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