嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-

第4話 果てなき焦燥

 彼女の気配を無意識に追う。遠巻きに、夫人たちに囲まれ座る姿が見えた。笑みを浮かべつつも、戸惑う様子がありありと伝わってくる。

 多くの者がひしめく広間だろうと、視界に入らない場所にいようと関係ない。

 例え国の(はし)と端にいたとしても、今の自分ならば、彼女との(つな)がりを確実に感じ取ることができるはずだ。

 対の託宣を受けた、たったひとりの存在。ようやくこの手にした、はずの――


     ◇
 夜会の会場に戻ると、多くの視線が特定の誰かを追っている。見やった先のダンスフロアに、ジークヴァルトとリーゼロッテの姿があった。

 仲睦まじく踊るふたりは、互いしか見えていない。それでいてジークヴァルトは周囲に殺気を飛ばしているから器用なものだ。リーゼロッテに目を奪われる者がそこかしこにいる。公爵夫人となった彼女は、確かにとても綺麗になった。

 元々愛らしい顔立ちのリーゼロッテだ。あどけない少女だった面影は薄れ、大人の女性として(かも)し出す雰囲気が、男のみならず同性の目すらくぎ付けにしていた。

(これは触らぬ神に(たた)りなしだな)

 下手に近づいてジークヴァルトの機嫌を(そこ)ねては面倒だ。そう判断したカイは、次のターゲットを探して辺りを見回した。人だかりの中心にいるその人物は、探すまでもなくすぐ目に留まる。

(レルナー公爵夫人……さて、どうやって近づくか)

 夜会の主催者側の彼女に、挨拶くらいは容易にできる。だが内緒話をするとなると、ダンスに誘うしか方法が見当たらなかった。
 しかし常に既婚者と浮名を流しているカイだ。妻に魔の手が伸びたとなると、レルナー公爵がいい顔をするはずもない。

 夫人と踊るのが無理なようなら、公爵に直接伝えるしかないだろう。そうは言っても、できればまだほかの貴族の耳には入れたくない内容だ。ハインリヒ王に無理難題を押しつけられて、カイはどうしたものかと思案に暮れた。

 こうして手をこまねいているうちに、今宵限りの逢瀬を望むご夫人に捕まるのも避けたいところだ。そんなことを思った矢先、誰か男に声をかけられた。

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