嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「カイ・デルプフェルト殿、あの時ぶりですね」
「これはエルヴィン殿。噂の次期グレーデン侯爵にお声がけいただけるなど光栄です」

 近づいてきたのは母カミラを連れたエルヴィン・グレーデンだった。昨年の白の夜会で潜入中に、エルヴィンにしてやられたことを思い出し、カイは張りつけたような笑顔を向けた。

「ここは初めましてと言うべきでしたか。どうせならあの日の(うるわ)しい姿で再びお会いしたかったと、ついそんなことを考えてしまいましたよ」
「はは、一体何の話でしょう。わたしには分かりかねますね」

 祖母ウルリーケの支配から逃れるために、幼少期から病弱で役立たずな跡取りを演じていたエルヴィンだ。令嬢に扮したカイをあっさり見破ったところを見ても、只者(ただもの)ではないのだろう。弟のエーミールと違い、カイの中でエルヴィンは要注意人物認定を受けていた。

「いやだわ、エルヴィン。デルプフェルト家と懇意(こんい)にしていると知ったら、エメリヒがいい顔をしないじゃない」
「それもお婆様の意向あってこそでしょう? もう何も心配はいらないですよ」
「カミラ様、ご無沙汰しております。今宵も変わらぬ美しさですね。とてもエルヴィン殿の母君とは思えません」

 カイの言葉に眉を(ひそ)めるも、夜会の席だからかカミラはそれ以上言い返すことはしなかった。

「ああ、一曲終わったようだ。カイ殿、よろしければ次の曲で、母のダンスの相手を務めてはいただけませんか?」
「エルヴィン、やめてちょうだい」
「いいではないですか。今夜は父上の目もないことですし、少しばかり羽目を外しても」

 グレーデン侯爵は嫉妬深く、妻カミラに男が近づくのをよしとしないのは有名な話だ。夜会でのダンスも、いつも夫婦で踊るのみだった。

「そんなこと言って、自分が好き勝手にしたいだけなのでしょう? わがまま言ってないできちんとわたくしをエスコートなさい」
「一曲誰か令嬢を誘うくらいは許してくださいよ。今宵は未来の妻探しのためにここへと来たんですから」
「そういうことならよろこんでご協力しますよ。カミラ様のお相手、責任をもって引き受けましょう。カミラ・グレーデン様、どうか至福のひとときをわたくしめにお与えください」

 カミラの手を取って腰を折り、カイはその指先に口づける。

「仕方ないわね……エメリヒのお小言は、エルヴィン、あなたがすべて引き受けてちょうだいよ」
「もちろん、そのように」

 悪びれない息子の返事に頷くと、カミラは居丈高(いたけだか)な態度でカイに手を預けた。

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