嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
     ◇
 今日も今日とて、頭の中を王たちの会話が響き渡る。
 最近では慣れてきたものの、うるさいことに変わりはなかった。早くアンネマリーの元に戻りたいと、ハインリヒは人知れず長く息を吐いた。

 ――これはこれは、随分と大きなため息だわい!
 ――悩み事なら遠慮などせず我らに申せ!
 ――言わずとも、すべて伝わってしまうがの!

 どっと湧いた耳障りな笑いに、眉間のしわが深くなる。このままでは自分もジークヴァルトのようになりそうだ。しかめ面が当たり前になりつつある日常に、再び大きな息が漏れて出た。
 二児の父となった今や、立場を投げ出すわけにはいくまいと、それだけを支えに単調な執務に取り組む毎日だ。それもアンネマリーの存在あってこそ、何とか折れずに済んでいるハインリヒだった。

 そんな日々の合間に、急な知らせを告げる来訪があった。早馬でやってきた者は、辺境の地・ヴォルンアルバから遣わされた使者だ。

 ヴォルンアルバを治めているのは、辺境伯であるジークフリート・フーゲンベルクだ。ジークヴァルトの父親である彼とは、数えるほどしか会ったことがない。そうなった理由はハインリヒにも分かっている。アデライーデに負わせた傷の件で、いまだ恨まれているのは重々承知のことだった。

 脳裏に浮かぶアデライーデは、いつでも快活な笑顔を向けてくる。だがその右目にかかる傷はハインリヒの罪の(あかし)だ。
 胸の内に生じた痛みは、永遠に癒えることはないのだろう。アデライーデへの仕打ちを思うと、むしろ忘れるなどもっての(ほか)だ。

 ――取り違いいたすな、お主が気に病むことではない!
 ――そうじゃ、あれは龍に逆らう者の因果の(あらわ)れじゃ!
 ――ひとえに、悪戯坊主の悪あがきじゃな!

(悪戯坊主の悪あがき……?)

 歴代の王たちの言葉に気を取られていると、目の前に丸められた書状が差し出されてきた。赤い(ひも)で結ばれているのは、優先度が高い内容であることを示している。

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