嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
     ◇
 夢見の巫女の衣装を身に纏い、マルコはレミュリオのうしろを無言で着いて行った。
 これが何回目の神事だったろうか。幾度泉に浸かっても、龍から言葉が降ろされる気配はまるでない。

「マルコさん、今日はやけに元気がありませんね。体調でもお悪いですか?」
「いえ、そういうわけでは……」

 俯いて視線を逸らした。神事に集中しなくてはと思うのに、最近マルコの頭を占めるのは後宮の箱庭で出会った赤毛の令嬢のことばかりだ。
 ずぶぬれだった彼女は、あのあと凍えてしまわなかっただろうか。あちらが先に口づけてきたとはいえ、乱暴にしてしまったことに自責の念が押し寄せる。

「大丈夫ですよ、マルコさん。先代の夢見の巫女ですら、青龍の言葉を降ろしたのは数えるほどでしたから」
「えっ? あ……っと、そうですね」

 おかしな返事をしてしまい、マルコは慌ててありがとうございますと付け足した。
 こんな雑念を抱えた状態で、神事に(のぞ)んでいいものだろうか。そう思うとますます気持ちが重くなる。
 無意識に漏れ出た溜息とともに、マルコは何度も問うた言葉を今日もレミュリオに向かって吐き出した。

「レミュリオ様……本当にこのままボクが夢見の神事を続けていいのでしょうか」
「ご心配には及びませんよ。泉に()かることができる事実こそ、マルコさんが夢見の巫女である証なのですから」
「でもボクが神事を務め始めてから、一度も言霊(ことだま)は降りて来ないし……」
「何ごともないのは、国の(まつりごと)が上手くいっている証拠ですよ。青龍は必要なときにしか言葉を与えないものです」
「レミュリオ様はいつも前向きですよね……」

 後ろ向きにしか考えられないマルコとは大違いだ。

「どうせなら、レミュリオ様が巫女に選ばれたらよかったのに」
「面白いことをおっしゃいますね」
「そうですか? レミュリオ様のほうがずっと綺麗だし、ボクよりも向いてるように思いますけど」
「マルコさんだからこそ、神事を立派に勤め上げられるのですよ。要は適材適所です」
「ボク的には適材とは思えなんですけどね」

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