嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 マルコが大きなため息をついたとき、神事の部屋の前までたどり着いた。

「すみません、いつもつまらない愚痴に付き合わせてしまって」
「いいえ、夢見の巫女を護り支えるのもわたしの仕事です。いつでもご遠慮なく」

 静かに笑みを()いたレミュリオに見送られ、奥にある祈りの泉へと向かう。
 泉の中は紛れもない神域なのだと、今では肌で感じ取れるようになった。はじめは何も分からなかったマルコだが、幾度も神事をこなすうちに感覚が研ぎ澄まされてきたのだろう。

 心を整え泉に片足を浸した。(ほうき)(ほこり)が掃かれるように、すっと雑念が払われていく。
 さざ波を立てながら泉の中央まで進むと、マルコは天井に刻まれた模様をじっと見上げた。

(なんだろう……今日はなんだか空気が重い気がする……)

 眉間を押されるような違和感が、先ほどからマルコを取り巻いている。うまく言い表せない感覚だったが、それは確かにいつもと何かが違うように思えた。
 気を紛らわせようと、他に考えを巡らせる。意識するまでもなく、ずぶ濡れの令嬢の姿がマルコの脳裏に浮かびあがった。

「あの女性(ひと)は今どうしているんだろう……」

 鮮やかな赤毛、濡れた肢体。金色の瞳が(いど)むようにマルコを見上げてくる。触れた柔らかな唇、彼女の熱い息遣い。
 神事の最中だというのに、考え出したら止まらなくなった。あの日の感覚が忘れられなくて、マルコの鼓動がいたずらに跳ね上がる。

 そのとき天井を模していた静かな水面(みなも)が小さなさざ波を立てた。異変を感じ取るよりも一瞬早く、得体の知れない(エネルギー)がマルコの頭頂部目がけてずどんと一気に降り注いだ。

 溢れ出た極彩色の光で頭の中が満たされる。目まぐるしく渦巻く映像(ビジョン)に、自分が立っているのかも分からなくなった。内側から膨張していく感覚は、まるで宙に浮いてしまっているかのようだ。

(何かが、来る――)

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