嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-

第25話 忍び寄る影

 最北の地、シネヴァの森の雪に(うず)もれた静かな館で、シンシアはいつものように祈りを捧げていた。

 鎮守の巫女に選ばれ、どれほどの時が流れただろうか。親兄弟は天に旅立って久しいが、呪われたこの身はいまだ少女の姿を保ったままだ。途中数えるのも馬鹿らしくなって、そこからさらに長い歳月が過ぎ去った。

 穏やかに揺れていた炎が、乱されるように暖炉の壁を立ち昇る。はっと顔を上げたシンシアは、何もない空間を仰ぎ見た。

(今宵は新月――)

 降り注ぐ光に(まぶた)を閉じる。視えてきた映像(ビジョン)は祈りの泉だ。ここより遥か遠く王城で起きた出来事が、臨場感をもって脳裏に映し出されていく。

 たった今、新たな夢見の巫女が誕生した。
 それも最悪の形をもってして。

「だからあれほど言ったのに……」

 夢見の力を継ぐ者以外は、決して泉に近づけてはならないと。

 息をつき立ち上がった。視えてしまった以上、自分にできることをやるだけの話だ。

「シンシア様? どうかなさいましたか?」
「これから忙しくなりそうよ、ラウラ」

 急ぎ(ふみ)をしたためる。

「この手紙をシルヴィに。テオに言って届けさせて」
狼主(おおかみぬし)にでございますか?」
(じき)に負傷者が増えることになるわ。今のうちにひとつでも多く薬草を確保しておきたいの」
「かしこまりました。すぐにでも」

 このままでは辺境の地ヴォルンアルバが混乱の(うず)に包まれる。
 避けられなかった未来を(うれ)うも、それは人々の思いが選び取った結果なだけだ。

 龍はいつも複数の未来を視せてくる。どの道を歩むのか、選択権は常に人の手に委ねられていた。

 託宣を主軸にしつつ、龍は人間の子らに自由を与えている。軌道修正が必要なときにのみ、その都度(つど)新たに神託が降ろされる。そうやって青龍は、長きに渡りこの国を護り導き続けてきた。

 窓辺に(たたず)み、シンシアは白一色の森を眺めやった。
 例えこの先混乱が起きたとしても、最終的に青龍は国に平和をもたらすのだろう。

(これまでも、そしてこれからも)

 (いしずえ)という数多(あまた)の犠牲を払いながら――。

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