嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 これをジークヴァルトが目にするたびに、自分のことを思い出してくれるのではないか。そんな下心を(いだ)きつつ、石に力を込めたリーゼロッテだ。

 しかしはにかんだリーゼロッテと対照的に、ぎゅっとジークヴァルトの眉根が寄せられた。

「あ、申し訳ございません。わたくしったら何のんきなことを……」
「いや、問題ない」
「ですがヴァルト様は領民のため、いつも身を粉にして執務に励んでいらっしゃるんですもの。公爵夫人として、自覚が足りないにもほどがありますわよね」

 しゅんとしてうつむくと、すぐさま顎をすくわれる。

「お前はお前のままでいればいい。それに別段オレは領民のために執務を行っているわけではない」
「でしたら何のためにやられているのですか?」

 リーゼロッテはこてんと首を傾けた。あれほどの激務だ。ひとつのモチベーションもなくこなせるはずはないだろう。

「やれと言われているからやっているまでだが」
「それだけの理由で? やりがいなどはございませんの?」
「やりがい?」

 今度はジークヴァルトが軽く首をひねった。まるで初めて聞く言葉を前にして、戸惑っているかに見える反応だ。

「例えば、ほら、ヴァルト様はよく領民からお礼の言葉をかけられますでしょう? それをうれしいと思ったりだとか……」
「確かに礼は言われるが、特にうれしく感じたことはないな。領主が領主の務めを果たすのは当然のことだ」
「それはそうかもしれませんが……」

 学校の宿題をこなすような口ぶりが、リーゼロッテにはまるで理解できなかった。例えそれが義務だとしても、自分の行いに感謝されたらよろこびのひとつも湧いてくるものだ。
 このままでは身を削って働くジークヴァルトが報われない気がした。何よりも妻として、いちばんに自分が支えとならねばいけない立場ではないのか。

「わたくし、これからはきちんとヴァルト様に(いた)わりの言葉をお伝えいたします」
「そんなもの、いつも口にしているだろう?」
「いいえ、もっともっと、もっとですわ!」

 のんきに膝に乗って菓子を頬張っている場合ではない。己の駄目妻加減を自覚して、リーゼロッテはちょっぴり涙目になった。

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