嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
◇
小さな控室で、マルコはレミュリオとともに泉の神事が終わるのを待っていた。
王妹であるピッパが夢見の力に目覚め、巫女役を務めていたマルコはお役御免となった。それどころかマルコの夢見の力が消えてなくなり、後宮の東屋から神殿へと戻されたのは半月ほど前の話のことだ。
瞳を閉じ、静かに座るレミュリオの顔を伺った。起きているのか、瞑想でもしているのか。盲目の彼が纏う空気はいつも近寄り難く思えて、マルコは声をかけるのをためらった。
「どうかなさいましたか?」
「あ、いえ、レミュリオ様が起きていらっしゃるのか分からなくて……」
「さすがのわたしでも神事中に居眠りはしませんよ」
ふっと笑われたマルコは慌てて首を振る。
「レミュリオ様が居眠りするなんて思っていませんっ。ボクはただ瞑想でもなさっているのかと」
「承知していますよ。盲いたこの顔では、さぞや表情も読み取りにくいことでしょう」
どんなときも穏やかな口調が変わることはない。感情を顕わにするレミュリオなど、マルコは今まで一度も見たことがなかった。
「それはさておき、何か話したいことでもおありですか?」
「はい……その、ボクが初めて神託を降ろした日のことなんですが……」
ずっと聞きたくて聞けずにいたことだ。真相を確かめるなら、レミュリオとふたりきりの今しかない。
「ピッパ様はどうやって泉の部屋に入ってきたのでしょうか。あの日、気づいたら奥にピッパ様が立っていたんです。そっちには壁しかないはずなのに……」
今いる小部屋を通らないことには、泉のある部屋にはたどり着けない。あのときも神官長とレミュリオがここにいて、誰も入りこめないよう神事の扉を守っていたはずだ。
「祈りの泉には隠し扉があるのですよ」
「隠し扉……?」
「ええ、青龍の扉と言いましてね。その扉を開けられるのは神である青龍しかいないとされています」
「青龍がピッパ様を泉に招いたということですか?」
「そういうことなのでしょう」
不可思議な話だが、それならば理解できないこともない。神官長は奇跡が起きたと言うばかりだったので、どうにも納得がいかなかったマルコだった。
小さな控室で、マルコはレミュリオとともに泉の神事が終わるのを待っていた。
王妹であるピッパが夢見の力に目覚め、巫女役を務めていたマルコはお役御免となった。それどころかマルコの夢見の力が消えてなくなり、後宮の東屋から神殿へと戻されたのは半月ほど前の話のことだ。
瞳を閉じ、静かに座るレミュリオの顔を伺った。起きているのか、瞑想でもしているのか。盲目の彼が纏う空気はいつも近寄り難く思えて、マルコは声をかけるのをためらった。
「どうかなさいましたか?」
「あ、いえ、レミュリオ様が起きていらっしゃるのか分からなくて……」
「さすがのわたしでも神事中に居眠りはしませんよ」
ふっと笑われたマルコは慌てて首を振る。
「レミュリオ様が居眠りするなんて思っていませんっ。ボクはただ瞑想でもなさっているのかと」
「承知していますよ。盲いたこの顔では、さぞや表情も読み取りにくいことでしょう」
どんなときも穏やかな口調が変わることはない。感情を顕わにするレミュリオなど、マルコは今まで一度も見たことがなかった。
「それはさておき、何か話したいことでもおありですか?」
「はい……その、ボクが初めて神託を降ろした日のことなんですが……」
ずっと聞きたくて聞けずにいたことだ。真相を確かめるなら、レミュリオとふたりきりの今しかない。
「ピッパ様はどうやって泉の部屋に入ってきたのでしょうか。あの日、気づいたら奥にピッパ様が立っていたんです。そっちには壁しかないはずなのに……」
今いる小部屋を通らないことには、泉のある部屋にはたどり着けない。あのときも神官長とレミュリオがここにいて、誰も入りこめないよう神事の扉を守っていたはずだ。
「祈りの泉には隠し扉があるのですよ」
「隠し扉……?」
「ええ、青龍の扉と言いましてね。その扉を開けられるのは神である青龍しかいないとされています」
「青龍がピッパ様を泉に招いたということですか?」
「そういうことなのでしょう」
不可思議な話だが、それならば理解できないこともない。神官長は奇跡が起きたと言うばかりだったので、どうにも納得がいかなかったマルコだった。