嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 しかしいまだ解らないこともある。ピッパは泉に弾かれた。それは夢見の力を持たない証明のようなものだ。

「なのにどうしてピッパ様が夢見の巫女に……」
「マルコさんは夢見の力を失ったことがご不満ですか?」
「いえ、それは願ったり叶ったりです! けどあの日、泉に触れたピッパ様は気絶するほど遠くへ()退()けられたんです」
「しかしわたしどもが見に行ったときに、泉の中にいたのはピッパ様でした。床の上で気絶していたのは、マルコさん、あなたの方ですよ」
「それは、助け起こそうとピッパ様に触れたら激痛が走って……」

 あのあと目が覚めた時にはもう神殿の一室にいた。神官見習いのときに使っていた相部屋ではなく、もっと広く豪華な部屋だ。
 それ以来、そこがマルコの私室となった。見習いから正式な神官に格上げされ、先輩神官を飛び越して夢見の神事を執り行う役割をも与えられた。

「その話は神官長にも?」
「いえ、話したのはレミュリオ様がはじめてです」
「そうですか。では、このことはわたしとマルコさんの胸にしまっておきましょう」
「でも……」
「現にピッパ様が夢見の神事を(こな)しているのは事実。混乱を招く事態になりでもしたら、マルコさんが罪に問われることになるのですよ」

 そんなふうに言われたらマルコも頷くしかなかった。ようやく取り戻した日常だ。あの閉ざされた箱庭へは、もう二度と戻りたいとは思わない。

「心配はいりません。ピッパ様の力は本物です。シネヴァの森の巫女の力を借りなければ神託を降ろせなかったクリスティーナ王女と違い、ひとりきりで言霊(ことだま)を授かっていますし」

 夢見の巫女となってから、ピッパはいくつも神託を降ろしている。それも短期間のうちにだ。

「あれこそが本来の巫女の力なのかもしれませんね。なんにせよ、すべては龍の(おぼ)し召しです」
「龍の……?」
「ご存じありませんか? 王の口癖ですよ」

 国王の口癖など、自分ごときが知っているはずもないだろう。そうは思ったものの、マルコはただ「そうですか」と頷き返した。

「レミュリオ様、もうひとつだけ聞いてもいいですか?」
「何でしょう」
「どうしてボクが神事の担当に選ばれたんでしょうか。夢見の力を失ったボクは、もう用済みだと思うのに」
「力を失ったとはいえ、マルコさんほど夢見に詳しい神官は他におりません。それにピッパ様のご指名もありましたし」
「ピッパ様が? そうでしたか……」

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