嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
     ◇
「レミュリオ様! お役目からお戻りになられたんですね!」
「これはマルコさん。ええ、今しがた戻ったところです」

 駆け寄ってきたマルコを嫌な顔ひとつせずに振り返った。神殿内を歩けば誰かしらに呼び止められる。それはレミュリオにとって日常のことだった。

「長距離の移動でさぞお疲れになったでしょう」
「いえ、気分転換にはちょうど良い旅でしたよ。わたしのことはさておき、マルコさんはいかがでしたか?」
「はい、あのあとピッパ様がまた言霊を降ろされました」
「そうですか。マルコさんならそつなく神事を熟せると思っていましたよ」
「ですが……」

 床に視線を落としたマルコが、縋るように見上げてきた。

「ピッパ様は新月と満月に関係なく、気分で神事をやらせろと突然言ってくるんです」
「その件で神官長はなんと?」
「夢見の巫女の言う通りにしろと……」
「それならばマルコさんが気に病むことはありませんよ。巫女に振り回されるのは大変かと思いますが」
「はい……月の満ち欠けに関係なく、青龍はピッパ様を通じて託宣を授けています。だからこれまでの慣例は無視していいと、神官長はそうおっしゃっていました」

 そう言いながらも、いまだ自信なさげなマルコだ。その原因は察しがついた。大方ヨーゼフあたりが、やっかみでマルコにきつく当たっているといったところだろう。

「何を憂いているのです? 誰かに何かを言われましたか?」
「実はヨーゼフ様が……」

 人の心が見え透き過ぎて、その単純さが微笑ましく思えるほどだ。
 ヨーゼフは神官長の座に執心しており、レミュリオにも何かにつけて絡んでくる人物だ。年功序列で考えるならば、彼を次の神官長に推すのが妥当なところなのかもしれない。
 しかし人望という点では実に微妙な男だ。新米神官のマルコすら脅威に感じる小物ぶりを見る限り、神官長が後継者にヨーゼフを選ぶことはまずないだろう。

「実にくだらない」
「え?」
「いえ、ただの独り言です。お気になさらず」

 慈愛の笑みを向けると、マルコは逆に不安げな顔になった。

< 429 / 522 >

この作品をシェア

pagetop