嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 カイの提案にハインリヒはすぐには頷けなかった。辺境伯であるジークフリートはバルバナスのことを快く思っていない。
 何しろ大事な娘を(かどわ)かされたのだ。バルバナスがアデライーデを無断で連れ去った日のことが、未だ禍根を残している。その上バルバナスはアデライーデの縁談話をことあるごとに妨害し、裏からすべて握り潰しているらしい。

 しかしこの一連の問題の大元と言えば、すべてハインリヒの愚行に集約される。自分がアデライーデに傷を負わせさえしなければ、こんな馬鹿げた騒ぎは起こらなかったはずなのだから。

「ハインリヒ様の御代(みよ)となり、無事にお世継ぎも誕生しました。そろそろ(わだかま)りを解消してもいい頃合いなのでは?」

 罪を犯した側が言い出すには、都合の良すぎる歩み寄りだ。

「お前がわたしに意見する時は、いつも甘言(かんげん)ばかりだな」
「ハインリヒ様がご自身に厳しすぎるだけですよ」
「そうやってまた甘やかす」

 ふっと笑みを漏らしたあと、ハインリヒは考え込んだ。
 辺境伯には有事の際に独断で武力をふるう裁量権を与えてある。悠長に王の命令を待っていては、他国の侵攻を許すことになるからだ。

 とは言えこの先、隣国が攻め入るような事態になれば、辺境の砦との連携は重要になってくる。王家と辺境伯とがぎくしゃくした関係のまま混乱が起きてしまったら、国全体に戦火が広がる可能性も出てくるかもしれない。それを考えるとカイの言うことは(もっと)もなのだろう。

 ハインリヒは無意識に耳を澄ました。こんなとき間髪入れずに助言を捲し立ててくる王たちの声は、今日に限って沈黙を保ったままだった。

(自分の頭で考えろと言うことか……)

 ハインリヒ自身がしでかしたことだ。落とし前をつけるのに、他人の意見を求めるなど情けないにもほどがある。

 ――そういうことではないのだがのう

 ぽつりと王のひとりが頭の中でつぶやいた。

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