嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
     ◇
 護衛騎士を従え、戸惑いながらもアンネマリーは王の執務室へと急いだ。
 王妃の離宮を出ること自体、本当に久しぶりのことだ。それこそ子を宿した日から、今の今まで部屋に籠りきりだった。それがいきなりハインリヒに呼び出されたのだ。

 双子を乳母に託し、身支度もそこそこに飛び出してきた。どんな一大事が起きたのだろうか。それでも動揺を表に出してはならないと、アンネマリーは逸る気持ちを抑えて執務室の扉を叩いた。

「アンネマリー、急に呼び出してすまなかったね」
「ハインリヒ……」

 中に入るなりハインリヒに抱きしめられる。

「双子の様子はどうだい?」
「ふたりともちょうど眠ってくれていたわ」
「そうか、それはよかった」

 この様子だと緊急事態ではなさそうだ。頬にやさしい口づけを受けて、アンネマリーは知らず安堵の息を漏らした。

「いきなりのことで無用な心配をかけてしまったかな。カイが君に挨拶がしたいと言うものだから」
「わたくしに挨拶を……?」
「ああ、アンネマリーもいい気分転換になるかと思ってね」

 ハインリヒの腕の中、すぐそこにカイがいることにようやく気がついた。居住まいを正し、アンネマリーは王妃然としてカイに向き直った。

「アンネマリー様、呼び立てる形になり申し訳ありません。王妃の離宮にお伺いするのは手続きに時間がかかり過ぎるもので」
「いえ、問題ありません。王のおっしゃる通りわたくしも良い息抜きとなりました」
「ならばよかったです。ハインリヒ様から密命を受け、しばらく王城を離れることとなりました。その前に一度、王妃殿下にご挨拶をと」

 カイの言葉にアンネマリーは内心首をかしげた。イジドーラ相手ならともかくも、これまで彼から正面切って挨拶を求められたことはない。
 だとしても王城騎士と王妃のやりとりだ。何もおかしいことではないと思い直し、アンネマリーはカイに向けて笑みを浮かべた。

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