嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「そうでしたか。あなたの働きにはいつも感謝しております。今回も重要な任務の様子。どうぞ頼みます」
「ありがたきお言葉。アンネマリー様のご期待に沿えるよう最善を尽くして参ります」

 騎士の礼を取ったカイに対して、アンネマリーは鷹揚(おうよう)に頷いた。

「おふたりとも、本当にご立派になられましたね」

 ふっと笑みを漏らしたカイを前にして、アンネマリーの中で再び違和感が膨らんだ。彼はこんなふうに穏やかに笑う人物だったろうか。

 出会った当初、アンネマリーはどうにもカイの作り笑いが苦手だった。表面はいたずらな少年のようでいて、その中にある計算しつくされた胡散臭さを感じていたアンネマリーだ。
 それが今はどうだろう。彼も大人になったと言えばそれまでかもしれないが、記憶の中にあるカイとはまるで別人のようにしか思えない。

「もうこんな時間か」

 ハインリヒが癖のように開いた懐中時計を見て、アンネマリーの切ない記憶がふいに呼び起こされた。この国の秘密もハインリヒの苦悩も、何も知らなかった令嬢時代の思い出だ。

 今思えば、ハインリヒが受けた龍の託宣の悲劇を、あの頃もカイはすべて知っていたのだろう。その上でずっと味方でいてくれたのだ。ハインリヒを信じてほしい。そう言って、彼は揺らぐアンネマリーを何度もつなぎとめようとした。

「辺境伯には調査に協力する旨、よくよく伝えておく。ほかに必要なことがあれば何なりと言ってくれ」
「はい、その時は遠慮なく。準備が整い次第、ヴォルンアルバ入りいたします」

 ふたりのやり取りに、アンネマリーは国境付近の任務と悟った。確かに一度行ったら、気軽に戻って来れる距離ではなさそうだ。

「道中、気をつけて」

 とっさに言ったアンネマリーを一度見て、カイはその視線をハインリヒへと向けた。そして口元に再び柔らかな笑みが乗せられる。

「わたしも安心してここを離れられます。どうぞいつまでも仲睦まじくお過ごしください。最後にお時間を頂きましたこと、心より感謝いたします」
「……ああ」

 ほかに言葉が見つからなかったかのように、ハインリヒは短く返した。いつになく硬い声音の横顔を、アンネマリーは思わず伺った。

 笑顔のまま出ていくカイを、ハインリヒはやはり硬い表情で送り出している。クリスティーナ王女との最後の謁見で感じた空気が蘇り、まるで今生の別れのようだと、なぜかアンネマリーはそんなふうに思った。

「ハインリヒ……」
「今は何も聞かないでくれ。いずれ、すべて分かる時が来る」

 閉められた扉を遠い瞳で見つめるハインリヒに、ただ頷き返すしかできないアンネマリーだった。

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