嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
     ◇
 公爵家に到着して、ベッティは真っ先にエラの元に向かった。世話になる側として、その家の侍女長に挨拶するのは基本中の基本のことだ。もちろん出産の祝いの品も忘れない。
 生まれる子の性別はどちらかというネタで、フーゲンベルク家では賭け事が行われていた。それに一口乗っていたベッティは、今回も上手いこと小銭を増やすことができてほくほく顔だ。ベッティにとって、エラはまさに幸運の女神のような存在だった。

「わぁ、これはまたマテアスさんそっくりでぇ」
「名前はエリアスよ。この子も優秀な家令になってくれるといいんだけれど」

 アーベントロート家は代々フーゲンベルク公爵家の家令を務めている。無事跡取りを産めたことに、エラも肩の荷が下りたような表情だ。
 それにしても、ほかの使用人たちの反応が見ていて面白すぎる。迷惑が掛からないよう順番に会いに来ている様子だが、赤子の顔を見たときの態度がみな一様なのだ。

(現実を突きつけられて、絶句してるってとこですかねぇ)

 侍女長になったエラは結婚後も日々忙しくしていた。家令のマテアスも似たようなもので、ふたりが夫婦らしく過ごす姿など目にする機会は皆無だった。
 ふたりの会話を耳にしても、事務的なことを伝え合うのみだ。そんな日常の中で多くの者が、実はエラはまだ結婚していないのではないかというおかしな幻想を抱くようになった。日増しに大きくなるエラのお腹を見ても、父親はマテアスなどではないと言い張る者すらいたらしい。

 そこにきてこのエリアス爆誕だ。どこからどう見ても父親はマテアス以外にあり得ない。祝いを伝えに来た使用人は、ぐうの()も出ない現実に打ちひしがれながら、ひとりまたひとりと肩を落として去っていく。

「エラさんは相変わらず人気者ですねぇ」
「何と言ってもマテアスの子供だもの。みながよろこんでくれて本当にうれしいわ」

 祝いの品々に囲まれて、エラはしあわせそうに微笑んだ。腕に抱かれたエリアスも、ご機嫌な様子で小さな手をにぎにぎしている。その指先から仄かな光がチラついた。

「あ、この子、ちゃあんとマテアスさんの力を受け継いでるんですねぇ」
「力って、異形の者を祓うっていう?」
「はいぃ、今青い光が見えましたからぁ。って言うことはぁ、この子の目は青色ですかぁ?」

 顔を近づけてまじまじと見るも、糸目過ぎて良く分からない。さすがマテアスの息子と言ったところか。

< 442 / 510 >

この作品をシェア

pagetop