嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
     ◇
 馬車を降り、どこかで見た風景に目を見張る。

「ここで待っていればカイに会えるの?」
「はいぃ、今の任務が終わり次第こちらへと向かうそうですぅ。早ければ明日にでもとのことですよぅ」

 ベッティとともにやってきたのは、王都の郊外にあるカイの隠れ家だった。森の一本道を進むとほどなくして一軒家が見えてくる。
 なんと言ってもカイと初めて結ばれた場所だ。まだ数か月前の話だが、懐かしさすら感じる雪の庭にルチアは夢見心地で踏み入れた。

「リーゼロッテ様が口裏を合わせてくださってますからぁ、ルチア様はずっとフーゲンベルク家にいたってことにしておいてくださいましねぇ」
「分かったわ。お義父様にバレないよう気をつける」

 ベッティに続いて家に入る。途端に低い唸り声が聞こえてきた。
 今にも飛びかかってきそうな体勢の犬が、薄暗い廊下の先で伏せている。長い耳が床まで垂れ下がった短足骨太の大きな犬だ。

「ぎゃっ、あのときのっ」
「リープリングぅ? ダメですよぅ、この方は大事なお客人なんですからぁ」

 ベッティが(たしな)めるように言うと、くぅんと鳴いた犬はすぐさま大人しくなった。

「今暖炉の火を大きくしますからぁ、ルチア様は中に入ってあったまってくださいませぇ」
「そ、その犬、大丈夫なの?」
「リープリングは賢い犬ですからぁ、なぁんにも心配いりませんよぅ」

 促されて廊下を進んだ。恐る恐る犬の脇を通り抜ける。唸り声はあげなかったものの、リープリングはこれ見よがしに鼻先にしわを寄せてきた。

「ベッティ! ちっとも大丈夫じゃないじゃないっ」
「えぇ?」

 ベッティが振り向くと、きゅぅんとリープリングはしおらしく体を丸めて見せた。

「どこも問題なさそうですがぁ?」
「ちょっと、あなた! なんなのよその変わり身は!」

 ベッティの後ろに隠れて抗議するも、リープリングはそ知らぬ顔でそっぽを向いた。

(もしかしたらこの前、不法侵入したことが尾を引いているのかしら……)

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