嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 貴族街から逃げ出した日、ルチアは茂みの奥にあった壁穴からこの家の中に入り込んだ。リープリングに追い立てられて、部屋中を駆けずり回ったことを思い出す。
 そう思うとそれ以上何も言えず、ルチアはリープリングを置いて暖炉のある居間へと移動した。

「いつまでここにいられるの?」
「リーゼロッテ様がヴォルンアルバに移動する日までには戻らないとですからぁ、いれて四、五日ってとこですかねぇ」
「そう」
「初めに言っておきますがぁ、カイ坊ちゃまが間に合わないってこともあり得ますからぁ。そこのところはご承知おきくださいませねぇ」
「ええ、分かってる」

 カイは任務で忙しい身だ。約束通りこうしてこまめに連絡も入れてくれている。我が儘は言わないとルチアも誓ったのだから、待つだけの日々にもう苦痛はなかった。

「ルチア様も移動続きでお疲れでしょうからぁ、今日のところは早く休みましょうかねぇ」

 どのみち今夜の訪れはないだろう。それなら体力回復に努めることに異論はないルチアだった。

「あ、そぅそぅ。こちらカイ坊ちゃまからですよぅ」
「これは?」

 差し出された琥珀に首をかしげる。受け取ると、手のひらがあたたかい感触に包まれた。

「こちらは守り石と言いましてぇ。カイ坊ちゃまのお力が込められてるようですよぅ」
「守り石? 力って何?」
「異形を祓う力ですねぇ。ご存じありませんかぁ? 浄化の光ですよぅ」
「あ、リーゼロッテ様が前に言っていた……」

 ルチアは思わず自分の手のひらをじっと見つめた。次いでスカートをめくって中を確かめる。

「いないわ……」

 ルチアの小鬼は、独りでいるときにしかその姿を現すことはなかった。特にカイの気配を感じると、一目散にどこかに隠れてしまう。

「ルチア様ぁ?」
「大丈夫、何でもないわ」

 そのうちまたひょっこり顔を出すだろう。そう思ってルチアは握る石に意識を戻した。

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