嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「そうそうフリート。改めて言っておくけど、こんなふうに抱き上げていいのはヴァルトたちの前でだけよ?」
「はっはっは、相変わらずリンデは恥ずかしがりだなぁ」
「ふざけないで。いいこと? もしも招待客の前でやったりしたら、この先十年は絶対に口をきかないから。そう覚悟しておきなさい」
「十年も可愛いリンデの声が聞けないのは地獄だなぁ。な、ヴァルトもそう思うだろう?」
「確かに。十年はさすがに長いかと」
「あら、それくらい妥当よ。ね、リーゼロッテ」
「え、ええ、そう……と言えるような言えないような……」
「どっちなんだ? リーゼロッテ」
「ヴァルト様っ、そういった突っ込みはなさらないでくださいませっ」
「それくらいリンデは恥ずかしがりってことだな! 可愛いぞぉう、ディートリンデ!」
「ちょっ、フリートっ」

 はーっはっはっ、と高らかに笑いながら、ジークフリートはディートリンデを抱えたまま広間をくるくると高速回転しはじめた。

(そう言えばジークフリート様ってこんな方だったわ)

 目の前の光景に言葉を失った。何より公爵家での自分を見ているようで、ディートリンデに同情を禁じ得ない。

(うう、それにしてもわたしの初恋の思い出が……)

 初恋の人であるジークフリートの王子様像が、どんどん脳筋野郎に置き換えられていく。それがなんともやるせなくなる。

「オレたちもするか?」

 あまりにじっと見つめていたからだろうか。耳元でジークヴァルトが不穏な言葉を囁いてきた。
 こちらの返答を待たずして、腕に力が入れられるのを感じ取る。

「い、いたしませんっ」

 慌ててぶんぶんと首を振った。のんきに感傷に浸っている場合ではない。このままではディートリンデの二の舞だ。

「遠慮することは」
「遠慮など! これっぽっっっちも! わたくし、いたしておりませんわっ」

 そんな小競(こぜ)り合いをしている間にも、ジークフリートは広間をフル活用して回転しまくっている。

「はーっはっはっはっはっはっ!」
「フリぃートぉっ、いい加減にしてぇ――――っ!」

 この親にしてこの子あり。
 そんな言葉がリーゼロッテの頭をよぎった。

(ヴァルト様の破天荒ぶりって、まさに父親譲りなんだわ……)

 こんな両親を目にして育ったならば、自分への扱いが残念仕様になるのも無理からぬことだ。
 これまでのジークヴァルトの奇行の数々も、妙に納得してしまったリーゼロッテだった。

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