嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
     ◇
 好きに過ごしていいと言われた通り、翌日はリーゼロッテを馬に乗せ、気ままに城下町へ駆って出た。
 フーゲンベルク領と違って、整備が行き届いているとは言い難い町並みだ。それもそのはず、辺境の地で過ごす者の半数は、他領から流れてきた荒くれ者が占めていた。

 ここは有事の際に戦場にもなり得る土地だ。しかし戦争など滅多には起こらない。騎士団を常在させるほどの話でもないため、いざと言う時とりあえずの戦力となる屈強な男たちを昔から募ってきたというわけだ。
 ヴォルンアルバに行けばとりあえずの職にはつける。そんな噂を聞きつけてやって来る者は、一定数いるものだ。夏の間だけ力仕事に駆り出され、雪深い冬は酒を飲んで暮らす。それが集まった男たちの定番のライフスタイルとなっていた。

 まだ治安の良さそうな大通りを行くと、町民たちの物珍し気な視線がこちらへ向けられた。自分ひとりなら気にも留めないが、その大半はリーゼロッテにくぎ付けになっている。
 それがおもしろくなくて、ジークヴァルトは人気(ひとけ)のない山あいへと馬を走らせた。

「寒くはないか?」
「はい、もこもこに着込んできましたから」

 白い息を吐きながら、リーゼロッテは前のめりに瞳を輝かせている。どこを走ろうと、見えてくるのは雪と岩だけの味気ない景色だ。それでもたのしそうにしている様子に、知らずジークヴァルトの口元も綻んだ。

「あっ、ヴァルト様、あちらの山に大きな穴が!」

 雪をかぶった山の一部が抉られて、赤茶けた岩肌をのぞかせている。下の方はトンネルになっていて、かなり深く掘られているようだ。

「あれは石の採掘場だ」
「石? 宝石が採れるのですか?」
「それもあるが、多くは守り石だな」
「まぁ、守り石が。こんな危険な場所で掘られていたなんて……」
「心配しなくとも今の時期は閉鎖されている。採掘するのは夏の間だけだ」

 強くなってきた風に、ジークヴァルトは馬を反転させた。

「そろそろ戻るぞ」

 引き返した街中では、噂を聞きつけでもしたのか道行く人間がやたらと増えていた。
 老若男女の人だかりが、大口を開けてリーゼロッテに見とれている。中には不躾に指をさしながら、リーゼロッテについて大声で話し合っている者さえいた。

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