嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「先ほどは閑散としておりましたけれど、この時間は活気があるみたいですわね」
「……ああ、そうだな」

 口をへの字に曲げて答えると、リーゼロッテが不思議そうに振り返った。

「ヴァルト様? どこかお加減でも悪いのですか?」
「いや、問題ない」

 ふいと顔を逸らせつつ、馬を先へと歩かせる。
 本当なら駆け足で通り過ぎたいところだが、リーゼロッテは街並みにいたく興味を示している。そんな様子を見て取って、本心とは裏腹に極力ゆったりとした速度で進んでいった。

 それでもやはりリーゼロッテを見られたくない。ジークヴァルトは目が合った人間に向けて、片っ端から殺人光線を発射した。悲鳴を上げて逃げ出す者が続出したが、リーゼロッテを見物しに来る人間はあとからあとから湧いて出てくる。

 これがきっかけで、次の辺境伯はとてつもない恐ろしい人物だと噂が流れるようになる。こんな辺境の地でも、魔王の名を欲しいままにするジークヴァルトだった。

「リーゼロッテぇ!」
「アデライーデお姉様!」

 勢いよく近づいてきた馬影に、ジークヴァルトから小さく舌打ちが漏れた。
 リーゼロッテの可愛らしい頬が、これまた可愛らしく桜色に色づいている。アデライーデが騎士服姿で現れるたびに、リーゼロッテはいつもこんな表情(かお)になる。
 それが実におもしろくなくて、ジークヴァルトはリーゼロッテを隠すように抱き寄せた。

「何しに来た」
「何しにって、リーゼロッテの護衛に決まってるでしょう? まったく。それが久しぶりに会った姉に対する言葉なの?」

 ふいと顔を逸らすと、リーゼロッテまで唇を尖らせ非難めいた上目遣いを向けてくる。その仕草も可愛らしすぎて、口付けようかと思ったくらいだ。
 だがそれをやったら確実に怒られる。可愛らしく頬をふくらませているリーゼロッテを想像しながら、仕方なしにジークヴァルトは感情のこもらない平坦な声で口を開いた。

「姉上、元気そうで何より」
「取ってつけたように言うんじゃないわよ。もう、ここはフーゲンベルク領と違って治安がよくない場所も多いのよ? リーゼロッテを連れ回すならきちんと護衛をつけなさい」
「問題ない。もう戻るところだ」

 再び顔をふいと逸らすと、その先からまたひとつの馬影が近づいて来た。

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