嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「おい、アデリー! 勝手に先行ってんじゃねぇ」
「大公閣下……!」

 腕の中でリーゼロッテがぴゅっと背筋を伸ばした。やってきたのは大公にして騎士団長のバルバナスだ。王族に相応(ふさわ)しく、雄々しい黒鹿毛(くろかげ)牡馬(ぼば)に堂々と(またが)っている。

「後れを取るバルバナス様が悪いんでしょ」
「あんだと? アデライーデ、もう一回言ってみろ」
「一介の騎士について来られないなんて、騎士団長の名が聞いて呆れるわ」
「ああ!?」
「何よ、本当のことじゃない。って、ヴァルト! 勝手に先行くんじゃないわよっ」

 相変わらずのふたりを置いて、ジークヴァルトはさっさとその場を離れていった。遠ざかるバルバナスたちを、リーゼロッテが不安そうに振り返る。

「ヴァルト様、大公様の前でこのような……」
「問題ない。行くぞ」

 これ以上リーゼロッテとの時間を邪魔されたくない。軽く(あぶみ)を蹴って、砦に向かって急ぎ馬を走らせた。
 結局すぐに追いつかれてしまったが、アデライーデは付かず離れずの距離を保ってついて来る。護衛のためにやってきたというのは、あながち嘘ではないようだ。

 ハインリヒがわざわざ騎士団を寄越してきたという父の言葉に、一度は眉をひそめたジークヴァルトだ。
 国境の警備を一任されているジークフリートにしてみれば、王に面目を潰されたようなものだ。それでなくとも父親は、ハインリヒのこともバルバナスのことも未だ赦してなどいない。

(オーランウヴスの動きはそれほどに怪しいのか……?)

 解消できずにいる禍根を無視してまでも、王としてハインリヒが命を下したのだ。そう思わざるを得ないだろう。
 そんな微妙な時期にリーゼロッテを連れてきてしまったことを、ジークヴァルトは後悔し始めていた。

「ちょっと、ヴァルト。少しくらいリーゼロッテを貸してくれたっていいでしょう?」

 戻った砦で呼び止められる。

「リーゼロッテは物ではない」
「まったく、相変わらず狭量なんだから」

 呆れかえるアデライーデに、リーゼロッテがすまなそうな顔を向けた。

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