嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「一曲だけだ」
「ほんと、狭量な男だこと」

 たのしそうに言う姉を前にして、ジークヴァルトはふと思った。
 バルバナスとアデライーデの喧嘩腰のやりとりは、自分にしてみればいつものことだ。だがこれを目にした両親は、さぞや複雑な心境でいるに違いない。

 ハインリヒの守護者に傷つけられたアデライーデは、貴族女性として華やかに生きる未来を無残に絶たれた。そして絶望の淵にいたアデライーデを(かどわ)かし、騎士の道へと(いざな)ったのがバルバナスだ。
 それが面白くないのなら、父ももっと強硬な手段に出ればよかったものを。正直そんなふうに思ったが、ジークフリートはアデライーデの意思を尊重することを選んだようだ。

 両親にも思うところがあるのだろうと、ジークヴァルトはこれまで口を挟むようなことはしてこなかった。何より今、こうしてアデライーデも笑顔を見せている。
 やはり自分がどうこう言うのは筋違いだと結論付けたジークヴァルトに、もうひとつの疑問が浮かんできた。

「姉上」

 行きかけたアデライーデを呼び止める。改まった様子のジークヴァルトに、アデライーデは不思議そうに首を傾げた。

「何よ?」
「姉上はあいつを殴りに行ったのか?」

 アデライーデが傷を負った直後、ハインリヒを殴って来ようかとジークヴァルトは一度尋ねたことがあった。そうすることで少しでも姉の気持ちが晴れるなら。そんな思いで聞いたことだ。
 だがアデライーデはすぐさま首を横に振った。どうせ殴るなら自分の手で殴り飛ばしに行くと。あの日、鏡越しで見つめ合ったアデライーデは、気高く誇らしく目に映ったのをジークヴァルトはよく覚えている。

「ええ、もちろん。きっついのを一発お見舞いしておいたわ」
「だがあいつの顔に殴られた様子はなかったが……」
「ああ、腹パンよ、腹パン。いくら本人がいいって言ってたって、さすがに目立つ場所はまずいでしょう?」
「そうか」

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