嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
     ◇
「しっかし、本当になんもない場所っすね」

 殺風景な街並みを見回しながら、隣を歩くニコラウス・ブラルが半ば感心したように漏らした。
 ニコラウスは面白い男だ。どんなに難しい相手でもまったく物怖じをしないし、すっと自然にその懐に入り込んでしまう。
 カイの目から見て、それは無意識に行われているようだ。計算づくで近づく自分とはまったくもって違うタイプと言えるだろう。

「はは、異論はないけど、それ聞かれるといい顔されないと思うよ?」
「はっ、そうっすよね! 以後気をつけますっ」

 最下級の騎士服を着て、下町の路地を行く。住民にじろじろ見られてはいるが、思いのほか敵意は感じ取れなかった。
 それもそのはず、王都からやってきた自分たちは格好の金ずるだ。今ヴォルンアルバはバルバナス率いる騎士団御一行様のお陰で、かつてない景気に沸いている。カイたちがどこをうろつこうが、不審がられることは特になかった。

 物々しい騎士団の行列は、相当インパクトがあったようだ。その上、辺境伯の息子であるジークヴァルトが来ているとあって、町人はこぞって中心街へと見物に集まっている。
 ジークヴァルトは未来の辺境伯であるし、一目みたいと思うのが人情だろう。今日も綺麗な奥方を連れて現れたという噂話で、街中が持ちきりとなっていた。

 リーゼロッテに関しては、本人には聞かせられないような会話が特に男たちの間で飛び交っている。ジークヴァルトが耳にしたら、それこそ迷いなく斬りかかるレベルの内容だ。

(はは、殺傷沙汰にならないといいけど)

 ひとりふたり被害を(こうむ)れば、凝りてみな口を(つぐ)むに違いない。

「デルプフェルト様、ひとつ聞いてもいいっすか?」
「ん? なに?」
「なんでオレを指名したんすか? エーミール様だっていたってのに」
「こんなとこ連れて来れないでしょ。グレーデン殿じゃ目立ちすぎるって」
「ああ、まぁ、それはそうっすよね」

 エーミールの洗練された身のこなしでは、平民出の下級騎士など演じられるはずもない。その点ニコラウスは、今回の任務にうってつけの人物だ。
 親しみやすい容姿に腰の低い態度は、とても伯爵家子息とは思えない。剣の腕も立つし機転も利くとくれば、相棒として言うことはないだろう。

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