嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「というわけで、今オレたち下っ端騎士だから」

 にっこり笑って、カイは呼び止めてきた女にひらひらと手を振った。

「そこの騎士の旦那たち、上手いもんあるからうちで食ってっておくれよ」
「悪いけど、さっき腹いっぱい食ったばっかでさ。次はここ来るよ。ね、ラル先輩?」
「へ? あ、ああ、そうだなっ。次はここで食うとしようっ」

 いきなり振られたにもかかわらず、ニコラウスは上手いこと先輩風を吹かしてきた。エーミールだったらこうもすんなりは行かないはずだ。

「ちょっ、デルプフェルト様、勘弁してくださいっすよ」
「やだなぁ、ラル先輩。敬語だなんておかしいですよ? ほら、オレのことなんていつもみたく呼び捨ててくれないと」

 小声で非難してくるニコラウスに、人好きのする笑みを返す。口を数回パクパクしたあと、ニコラウスはやけくそのように思い切りふんぞり返った。

「ああ、そうだったなっ。いいか、デ、デ、デ……デル、オレの言うことは絶対だからな? このオレ様についてくりゃ間違いなしだっ」
「さっすが、先輩! 頼りになるなぁ」

 がさつな足取りで前を行くニコラウスに、へこへこしながらカイは小走りでついて行った。即席コンビにしてはなかなか息が合っている。どこから見ても、ふたりは平民出の下級騎士にしか見えないだろう。

 目抜き通りを外れると、がらっと空気が様変わりした。人数がぐっと減り、寂れた裏道は殺伐とした空気で満ちている。
 砦に近い中心街は昔からこの土地に住む者が暮らしているが、流れの余所者は治安の悪い区域に集まっているようだった。

「騎士の旦那方、ここいらはあんたたちが来るような場所じゃないですぜ」
「おっと、ちっと道に迷っちまったかな?」

 来た道を振り返るニコラウスの背に、カイは怯えた様子で張り付いた。

「ラル先輩、猫なんてほっといてもう戻りましょうよ」
「馬鹿言ってんな。あの猫は親父の形見なんだよ。こんな場所に置いてくわけにはいかねぇんだ」
「猫? 旦那はそんなもん、騎士団の遠征に連れて来たんで?」
「世話する人間もいねぇんじゃ、連れて来るしかねぇだろ? さぁ、もっと奥に探しに行くぞ、デル」

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