嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「何ごとだ」
「流刑の地より早馬が。ツェーザル・ザイデルが脱獄したとの知らせにございます」
「脱獄……? あの監獄からか?」

 ツェーザルはイジドーラの兄にあたる人物だ。謀反を企てた罪で貴族籍を剝奪され、長きに渡り流刑の地に幽閉されていた。
 しかし監獄は断崖を(えぐ)って絶壁半ばに建てられており、そう簡単に逃げ出せる環境ではない。周辺は人里遠い何もない荒野で、脱出できたところで生き延びるのも困難な場所だった。

「してツェーザルの行方は?」
「現在追跡中とのことですが、身柄を拘束するには至っておりません。何者かが手引きをした模様で、状況から見て用意周到に計画されたものかと……」
「手引き? そのような馬鹿な真似をするなど、一体どの一派だ」

 ツェーザルへの処遇はまさに反逆者としての見せしめだ。社交界ではその名を出すことすら未だに(はばか)られている。
 王家に反感を持つ貴族がいたとして、そんな彼を支持する者が存在するなど(にわ)かには信じ難い話だった。

「それが……手引きした者の中に異国の言葉を話す人間がいたとの報告が」
「異国の言葉……オーランウヴスか?」
「恐らくは」

 渋面で頷いたキュプカーに、ハインリヒも同様の顔を返した。流刑の地は国境を守るヴォルンアルバの外れに位置している。

(そんな奥地にまで隣国の手の者が……)

 侵略が目的でツェーザルの脱獄手引きをしたのだとしたら、オーランウヴスは国の内情を相当調べ上げていることになる。
 貴族籍を剥奪したとは言え、ツェーザルは公爵の地位に就いていた人物だ。地理や貴族の力関係など、この国を落とすための情報を得るにはもってこいの人材だろう。
 その上王家に恨みを抱き、謀反を企むほどの野心家と来ている。隣国にとっては利用価値があり過ぎだ。

「辺境の砦にこの情報は?」
「いえ、まずは王にご報告をと真っ先に城へ馬を走らせたようです」
「事態は急を要する。急ぎ辺境伯にも知らせを送れ」
「御意に」

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