嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 礼を取ったルチアを不思議そうにまじまじと見やってくる。
 イザベラと知り合いで何がおかしいというのか。逃げるようにさらに礼を深くしたルチアの顔を、ニコラウスは間近から覗き込んできた。

「ん? オレたち、どこかで会ったことないか……?」

 至近距離の声に、はっとルチアの記憶が蘇る。

(どうしよう……この人、貴族街でわたしを追いかけてきた人だわ)

 王都の貴族街で逃げ出したときに、占いの館まで執拗に追ってきた男がいた。必死に逃げる背後から叫ばれた声は、確かにニコラウスのものだった。
 あの日は三階の窓から脱出したあとで、ボロボロな姿だったところを見られてしまっている。なんと言い逃れしようかと、青ざめたルチアはきつく唇をかみしめた。

「あ、あの、以前大きな夜会でブラル様をお見かけしたことがございます。わたくしからお声がけするわけにもいかず、ご挨拶が遅れてしまいました。誠に申し訳ありません」
「え? いや、そんなことは謝らんでも」
「いいえ、イザベラ様にお世話になっているのに、至らなかったわたくしが悪いです」

 どうにか話を逸らそうと、焦って声が震えてしまう。
 そこをさっと手を取られて、ルチアはエーミールの腕に引き寄せられた。

「ニコラウス、つまらない手管(てくだ)で女性を口説こうとするな」
「うわっ、勘弁してください、口説くつもりで言ったわけじゃないっすよ! 彼女とは本当にどこかで会った気がして」
「どうだかな」
「さすがのオレもこんな陳腐な口説き文句使いませんって!」
「見苦しいぞ、ニコラウス。ブルーメ嬢を怯えさせておいて、口にするのは言い訳だけか」

 冷たく言い放たれた言葉に、ニコラウスがぐっと喉を詰まらせる。蔑む視線を保ちながらも、エーミールは呆れたように語調を緩めた。

「ニコラウス、お前は騎士団に在籍期間も長い。ブルーメ嬢の容姿に親近感を覚えるのはそのためだろう」

 エーミールが見やった先、そこには騎士団長のバルバナスがいた。大柄な赤毛の男だ。威圧感と言うべきか、遠目に見てもバルバナスは周囲に異様な存在感を放っている。

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