嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
      ◇
 遠くから舞踏会の喧騒が聞こえてくる。
 広間に戻る気にもなれなくて、カイはあてどもなく廊下をプラプラと歩いていた。
 火遊びに誘ってきたご夫人は、面倒で眠り針を使って適当に休憩室へ押し込んできた。あとは使用人に任せてきたので、大事にはならないはずだ。

 ルチアの良さを知った今では、ほかの女を抱きたいとも思わない。もし任務での情報収集があったとしても、もう別の手段を取るであろうカイだった。

 誰もいない廊下で、ルチアのペンダントを取り出した。表面にはプリムラの模様が細工されており、開いてみると中には精巧に彫られた青龍が鎮座している。
 どれをとっても職人芸が光る超がつく一級品だ。これをルチアの母親が持っていたとするならば、元々ウルリヒ・ブラオエルシュタインの所有物だったのだろう。

 プリムラは王族である彼の象徴とされる花だった。この存在を早くに知っていたのなら、ルチアの身元もすぐに判明していたに違いない。
 イグナーツに会いに行った王都の街の片隅で、たまたま出会った痩せぎすのルチアを思い出した。今思えば、あれは偶然などではなかったはずだ。

「すべては龍の思し召し、か……」

 青龍の手のひらの上でいいように転がされていたのかと思うと、少々面白くないカイだった。

 ペンダントのロケットをぱちりと閉じる。これを失くしたルチアが取り乱していたと聞き、それはそうかと初めはそんな感想を抱いた。
 何しろ母親の唯一の形見の品だ。天涯孤独となったルチアにしてみれば、掛け替えのない代物であるのは当然だろう。

 しかしカイはベッティに託すことをとっさに避けた。理由は至極単純だ。ほんの一時だとしても、カイ以外の何かにルチアが心乱すことが許せなかった。

(そうだ、ルチアはオレだけを見ていればいい――)

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