嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 ぐずぐずしていたら何が起こるか分からない。せっかく見逃してくれたのだ。ここは早急に去るのが吉だろう。

「さ、早く。あちらにいけばジークヴァルト様がいらっしゃるから」
「公爵様が?」
「ええ、ヴァルト様なら何があっても守ってくださるわ」

 力強く言うと、なぜかルチアは唇を噛みしめた。焦るリーゼロッテとは裏腹に、頑なにルチアはこの場から動こうとしてくれない。
 同時にルチアの腕を逃れた小鬼が、奇声を上げて再び騒ぎだした。殺気立った様子で落ち着きなくあちこちを跳ね回る。
 そんなとき紅の女が歩みを止めた。ゆっくりと振り向いて、じっとこちらに注意を向ける。

 途端に紅の瘴気が膨れ上がった。(いろ)も粘度も質量も、何もかもが濃密となってリーゼロッテたちの周囲に絡みつく。
 こうなればルチアだけでも先に逃がすしかない。圧倒的な邪気に包まれて、足がすくみそうな中リーゼロッテはルチアの背を強く押し出した。

「いいから早くっ」

 突き飛ばす勢いに、つんのめったルチアが怒りの表情で振り返る。それに構っている余裕もなく、リーゼロッテは紅の女に自ら近づいた。
 ゆっくりと掲げられた片手に、いつか受けた無数のかまいたちを覚悟する。しかし紅の女が捉えていたのは、明らかにリーゼロッテ以外の何かだった。

(どういうこと――?)

 その疑問が浮かぶと同時に、女の唇がにぃっと形良く弧を描く。次の瞬間、灼熱の瘴気が迷いなくルチアに向かって放たれた。

「いけないっ、ルチア様……!」

 咄嗟に前に飛び出して、リーゼロッテは穢れた紅に立ちはだかった。

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