嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
 不穏な空気を察知して、アデライーデはすぐさまふたりの間に割って入った。
 バルバナスも舞踏会に顔を出していた。酒が入っていたら状況を見誤る。

「今日は一滴も飲んでねぇ。オレは至って冷静だ。戦況を見て最善の判断を下しているまでだ」

 さりげなく酒のにおいを確かめているのが伝わったのだろう。先回りしてバルバナスが答えた。
 騎士団長としての采配の腕は、アデライーデが一番によく分かっている。戦神と謳われるバルバナスだ。これまでも戦いが混乱を極めれば極めるほどに、その真価は如何なく発揮されてきた。
 だが今は父の主張を支持するよりほかはない。紅の異形の件もある。何よりリーゼロッテが心配だった。

「敵陣は包囲済みなんだし、ジークヴァルトがいなくても砦と騎士団の兵力で十分対処できるはずだわ」
「だとしても国の有事だ。貴族なら身内よりも優先すべきことがあるだろう」
「国のことを言うならリーゼロッテの安全の確保も大事じゃない。バルバナス様だって異形の騒ぎに気付いてないわけじゃないでしょう? 今すぐジークヴァルトを行かせるべきよ」
「アデライーデの言う通りです。ジークヴァルトとリーゼロッテは龍から託宣を授かった身。この場で誰よりも最優先されるべき存在と言えましょう」
「ちっ、龍付きはいいご身分だな」

 毒づいてバルバナスはジークヴァルトから手を離した。
 礼もとらずにあっという間に駆け去ったジークヴァルトを、バルバナスは忌々しげに見送っている。無礼を咎めると言うよりも、託宣を受けた者に対するいつもの苛立ちなのだろう。

 託宣を受けなかったバルバナスは、王の長子でありながら騎士団長の身に甘んじた。王位は龍に選ばれた弟のものとなり、託宣の存在を知らない貴族たちから馬鹿にされ続けていることをアデライーデは知っている。
 しかしそんな王族のプライドも、龍の意思の前では塵ほどの意味も持ちはしない。

 憎しみに震えるバルバナスの横顔を見上げ、現実はいつでも残酷だと、アデライーデはそんなことを思った。

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