嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
     ◇
(形勢は不利としか言いようがないな)

 異国の言葉が飛び交う中、ツェーザルは冷静に戦況を見極めていた。
 どう考えても分が悪すぎだ。オーランウヴスのナラン皇子の後方に控えながら、ここを抜け出す算段を早々に模索し始める。

 長きに渡り流刑の地に囚われていたツェーザルは、数年前からオーランウヴスからの接触を受けていた。牢から助け出すことを条件に、ナラン皇子に国の機密情報を差し出した。
 秘密裏に計画が立てられて、隣国の手引きのもと晴れて自由を取り戻すことができた。ここまでは何もかもが順調に思えていた。

 オーランウヴスの皇帝の座を得るために、ナラン皇子はハインリヒ王の首を欲している。その手助けをする対価として、ナランがブラオエルシュタインを掌握した暁には、ツェーザルが新しい王となる密約を取り付けた。
 だが蓋を開けてみるとどうだろう。
 ナラン皇子は国境を守るヴォルンアルバを強襲し、砦の一角を占拠した。そう言えば聞こえはいいが、辺境伯であるジークフリート・フーゲンベルクに瞬く間に包囲され、今こうしてあっさり窮地に陥っている。

 話を整理すると、何年もかけてようやく潜入した敵国で、オーランウヴス勢はここに来て騎士団に尻尾を掴まれてしまった。そこでナランは考えた。このまま手をこまねいていると、これまでの努力が全て無駄になってしまう。ならば一か八かで砦を占拠しようと、強引な手段に出たというわけだ。
 舞踏会が開かれる今日が最善の機会と捉えたらしい。砦の兵も王城騎士も、皆酔いが回って使い物にならないはずだ。その目論見は当てが外れてしまったようだ。

(ヴォルンアルバは難攻不落の砦。そう簡単に落とせる訳はあるまい)

 その上騎士団長バルバナスは、兵の駒使いに秀でている。それはツェーザルも認めるところだ。
 険しい山脈を越え、ここまで下の者を従えてきたナランもなかなかのものと言えなくもない。これがまったくの不意打ちだったなら結果もまた違ったのだろう。だが時はナランに味方してくれなかった。

(助け出してもらった対価はもう十分に払ったはずだ)

 ならばこれ以上義理立ては不要のこと。混乱に乗じてツェーザルはオーランウヴスの陣から抜け出した。

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