嘘つきな騎士と破られた託宣 -龍の託宣6-
「あの(ひと)は本当に危険なの!」
「あのひと?」

 どこに人がいると言うのだろうか。どんなに目を凝らしてみても、ルチアには赤い輝きにしか見えなかった。
 それなのに焦れたようにリーゼロッテが手を引っ張ってくる。

「あちらにいけばジークヴァルト様がいらっしゃるから」

 その瞬間、ルチアの心のどこか奥がチリチリとした不快な熱を持った。と同時に舞踏会で公爵と仲睦まじげに寄り添っていたリーゼロッテの姿が脳裏に浮かぶ。

「ヴァルト様なら何があっても守ってくださるわ」

 自信満々に放たれた言葉に、ルチアは口元が歪んだのが自分でも分かった。

 ――どうせルチアはリーゼロッテのように愛されることはない

 そんな優越感をリーゼロッテから向けられた気がして、言いようのない苛立ちが腹の底から湧いてくる。
 その黒い感情は(ムシ)のごとく(うごめ)いて、ルチアの心を怒り一色に染め上げていく。
 知らず胸に抱く小鬼を抱きつぶしそうになる。奇声を上げた小鬼は、逃げるようにルチアから離れていった。

「いいから早くっ」

 いきなり強く突き飛ばされて、ルチアはリーゼロッテを睨みつけた。
 人目を憚らず、公爵に愛されるリーゼロッテが憎い。
 あんなふうに、自分もカイに愛されてみたいのに――

 リーゼロッテが何かを叫んでいる。
 嫉妬と猜疑が膨れ上がって、この心が焼き切れてしまいそうだ。

 激しく揺らめく紅蓮の輝きが、唯一心地よく目に映った。
 あの深紅こそ、今のルチアに相応しい。


 飲まれるように、ルチアの意識が真っ赤に染まろうとした。

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